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登高(杜甫) 書き下し文と現代語訳

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 今回は、杜甫の漢詩「登高」の白文(原文)、訓読文、書き下し文、現代語訳(口語訳・意味)、読み方(ひらがな)、形式、押韻、対句、語句・文法・句法解説、おすすめ書籍などについて紹介します。


【近体詩(唐詩)】 「登高(とうこう)」 杜甫(とほ):盛唐


<要旨>

九月九日の重陽の節句に、ただ一人高台に登って思いにふけった詩。


<白文(原文)>

風急天高猿嘯哀 渚清沙白鳥飛廻
無辺落木蕭蕭下 不尽長江滾滾来
万里悲秋常作客 百年多病独登台
艱難苦恨繁霜鬢 潦倒新停濁酒杯



◇送り仮名などは本によって若干違う場合があるので、あなたのテキストに従ってください。

◇漢詩(近体詩)の規則をこのページ中段に記載しています。

◇書き下し文のルールについては、このページ下段に記載しています。

◇返り点の読み方、置き字などについて知りたい場合は、「漢文の基礎知識」を読んでね。

◇現代仮名遣いのルールについて知りたい場合は、「現代仮名遣いの基礎知識」をどうぞ。



《白》 白文
《訓》 訓読文(返り点・送り仮名・句読点など) ※返り点送り仮名 ※置き字
《書》 書き下し文(歴史的仮名遣い)
《仮》 読み方・現代仮名遣い(ひらがな)
《訳》 現代語訳(口語訳)
※《別の訓読および読みなどがある場合は訳の下に記載》


《白》 風急天高猿嘯哀
《訓》 風急天高クシテ猿嘯哀
《書》 風急に天高くして猿嘯哀し
《仮》 かぜきゅうに てんたかくして えんしょうかなし
《訳》 風は激しく吹き、秋の空はどこまでも高く澄みわたり、猿の鳴き声が悲しそうに聞こえてくる。

《白》 渚清沙白鳥飛廻
《訓》 渚清沙白クシテ鳥飛
《書》 渚清く沙白くして鳥飛び廻る
《仮》 なぎさきよく すなしろくして とりとびめぐる
《訳》 (見下ろすと)揚子江の水辺は清く、砂は白く、鳥が輪を描いて飛びめぐっている。

《白》 無辺落木蕭蕭下
《訓》 無辺落木蕭蕭トシテ
《書》 無辺の落木蕭蕭として下り
《仮》 むへんのらくぼく しょうしょうとしてくだり
《訳》 果てしなく続く木々からは、枯れた葉がもの寂しい音をたてて散り落ち、

《白》 不尽長江滾滾来
《訓》 不尽長江滾滾トシテタル
《書》 不尽の長江滾滾として来たる
《仮》 ふじんのちょうこう こんこんとしてきたる
《訳》 尽きることのない揚子江の水は、湧き立つように盛んに流れてくる。
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《白》 万里悲秋常作客
《訓》 万里悲秋常
《書》 万里悲秋常に客と作り
《仮》 ばんり ひしゅう つねにかくとなり
《訳》 故郷を遠く離れた地で、もの悲しい秋を迎え、私は相変わらず放浪の身の旅人であり、

《白》 百年多病独登台
《訓》 百年多病独
《書》 百年多病独り台に登る
《仮》 ひゃくねん たびょう ひとりだいにのぼる
《訳》 生涯、病気がちの身で、(慰めてくれる人もなく)今日はたった一人この高台に登っている。

《白》 艱難苦恨繁霜鬢
《訓》 艱難苦繁霜
《書》 艱難苦だ恨む繁霜の鬢
《仮》 かんなん はなはだうらむ はんそうのびん
《訳》 さまざまな悩みや苦しみのために、髪の毛が霜のおりたように真っ白になってしまったことを、とても恨めしく思う。

《白》 潦倒新停濁酒杯
《訓》 潦倒新タニ濁酒
《書》 潦倒新たに停む濁酒の杯
《仮》 ろうとう あらたにとどむ だくしゅのはい
《訳》 老い落ちぶれた私は、せめてもの慰めであった濁り酒の杯さえも、近ごろ手に取ることをやめたばかりである。



<漢詩(近体詩)の規則>

◇唐代に完成した形式(絶句・律詩)=「近体詩」、それ以前の形式=「古体詩」

五言絶句七言絶句五言律詩七言律詩
句数4句8句
字数一句5字・計20字一句7字・計28字一句5字・計40字一句7字・計56字
押韻2・4句の末尾1・2・4句の末尾2・4・6・8句の末尾1・2・4・6・8句の末尾
対句用いても用いなくてもよい。原則、頷聯(3・4句)&頸聯(5・6句)が対句。

◇絶句=起句(第一句)、承句(第二句)、転句(第三句)、結句(第四句)

◇律詩=二句をまとめて「聯(連):れん」という。
首聯(しゅれん)=第一句・第二句、頷聯(がんれん)=第三句・第四句、頸聯(けいれん)=第五句・第六句、尾聯(びれん)=第七句・第八句

◇押韻(おういん)=同じ響きの字を句末に置くこと。 
天(ten)・川(sen)、鳥(tyou)・少(syou

※ほとんどの押韻は上の例で示したように日本語の漢字音でもわかりますが、あくまでも詩人たちが生きていた時代(唐など)の中国音での押韻です。

◇対句(ついく)=二句の文法構造が同じで、互いの各語が意味などの上で何らかの対応をしていること。

さらに詳しく知りたい方は「漢詩の規則と基礎知識(漢詩のリズム・覚えておきたい詩人)」の記事をどうぞ。


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<形式>

七言律詩


<押韻>

哀・廻・来・台・杯


<対句>

首聯(しゅれん)(第一句と第二句)

頷聯(がんれん)(第三句と第四句)

頸聯(けいれん)(第五句と第六句)

尾聯(びれん)(第七句と第八句)

※この詩は全て対句=全対(ぜんつい)。


<語句・文法・句法解説>

登高 :陰暦九月九日「重陽の節句」に、小高い山や丘へ登り、家族や友人と酒を酌み交わして厄払いする行事のこと。

風急 :風が激しく吹く。

天高 :秋の空がよく晴れて、雲が全くない様子。

猿嘯 :猿の鳴き声。
 
渚 :揚子江の水辺。

無辺 :果てしない。

落木 :落ち葉。

蕭蕭 :落ち葉が寂しげに落ちる音の形容。

長江 :揚子江。

滾滾 :水が盛んに流れる様子。

万里 :非常に遠い距離。ここでは故郷から遠く離れていること。

客 :旅人。
 
百年 :長い年月。ここでは生涯の意味。

艱難 :さまざまな悩みや苦しみ。

苦恨 :とても恨めしい。

繁霜鬢 :霜のおりたように真っ白になった髪の毛。

潦倒 :年老いて落ちぶれた様子。

新 :~したばかり。

濁酒杯 :濁り酒を注いだ杯。

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<ブログ内の漢詩索引>

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<書き下し文のルール>

◇書き下し文(かきくだしぶん)とは、訓点(返り点・送り仮名・句読点など)に従って、漢字仮名交じりで書いた歴史的仮名遣いの日本文のこと。

①漢文に付いているカタカナの送り仮名は歴史的仮名遣いのまま平仮名で書く。

②日本語の助詞や助動詞にあたる漢字は平仮名に直す。

③再読文字は最初の読みの部分は漢字+送り仮名、二度目の読みの部分は平仮名で書く。
・例:未。(未だ知らず。) 

④訓読しない漢字(置き字)は書き下し文に書かない。

⑤会話文・引用文の終わりの送り仮名「~」は、「と」を「」の外に出し、「~。」と。と書く。
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