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万葉集 瓜食めば子ども思ほゆ栗食めば 品詞分解と訳

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 今回は、「万葉集」収録和歌二首の現代語訳(口語訳・意味)・品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)・おすすめ書籍などについて紹介します。

 この歌の反歌「銀も~」については、「こちらのリンク(銀も~)」から参照してください。


万葉集 巻5・802 山上憶良(やまのうえのおくら)

子等(こら)を思ふ歌一首 序を并せたり
(子らを思う歌一首 序文をあわせてある)

釈迦如来い、金口に正に説きたまはく、「等しく衆生を思ふこと、羅睺羅(らごら)の如し」とのたまへり。又説きたまはく、「愛は子に過ぎたりといふこと無し」とのたまへり。至極の大聖すら尚し子を愛しぶる心あり。況むや世間の蒼生の、誰かは子を愛しびずあらめや。

(釈迦如来がその尊いお口で、まさにお説きになったことには、「等しくあらゆる生き物をいつくしみ思うことは、我が子の羅睺羅を思うのと同じである」とおっしゃった。また、お説きになったことには、「愛は子を愛することに勝っているものはない」とおっしゃった。至高の大聖人でさえ、やはり子を愛する心を持っている。まして世間一般の人は、いったい誰が子を愛さないことがあろうか。)


瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ 何処より 来たりしものそ 眼交に もとな懸かりて 安眠し寝さぬ


<平仮名> (歴史的仮名遣い)

うりはめば こどもおもほゆ くりはめば ましてしぬはゆ いづくより きたりしものそ まなかひに もとなかかりて やすいしなさぬ


<万葉仮名>

宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尓 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農


<現代語訳>

瓜を食べると(それを好む)子供たちのことが自然と思い出される。栗を食べると、なおさら偲ば(しのば)れる。いったい子供というものは、どこからやって来たものなのか。目の前にわけもなくちらついて(私を)安眠させてくれないことよ。


<作者>

山上憶良(やまのうえのおくら)
660年~733年頃。飛鳥時代後期~奈良時代前期の歌人。万葉集第三期。702年遣唐使として入唐し帰国後伯耆守・筑前守などを歴任。漢詩文など中国文学の影響を強く受け、人生苦や人間愛を主題にした思想性の強い独自の歌風による社会派歌人。
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<品詞分解> 歌

瓜【名詞】 
食め【動詞・マ行四段活用「はむ」の已然形】 
ば【接続助詞】

子ども【名詞】 
思ほゆ【動詞・ヤ行下二段活用「おもほゆ」の終止形】

栗【名詞】 
食め【動詞・マ行四段活用「はむ」の已然形】 
ば【接続助詞】

まして【副詞】 
偲は【動詞・ハ行四段活用「しぬふ」の未然形】 
ゆ【自発の助動詞「ゆ」の終止形】

何処【代名詞】 
より【格助詞】

来たり【動詞・ラ行四段活用「きたる」の連用形】 
し【過去の助動詞「き」の連体形】 
もの【名詞】 
そ【終助詞】

眼交【名詞】 
に【格助詞】

もとな【副詞】 
懸かり【動詞・ラ行四段活用「かかる」の連用形】 
て【接続助詞】

安眠【名詞】 
し【副助詞】 
寝さ【動詞・サ行四段活用「なす」の未然形】 
ぬ【打消の助動詞「ず」の連体形】
※「ぬ」(打消の助動詞「ず」の古い終止形)とする説もある。

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<語句文法解説>

「子ども」の「ども」 :同じようなものが複数あることを表わす接尾語。

思ほゆ :(自然に)思われる。 
※「思ふ」の未然形「思は」+「ゆ」の「思はゆ」が変化して一語化したもの。
※「ゆ」は、上代(奈良時代以前)の自発の助動詞「自然に~れる。」
※「思ほゆ」は中古(平安時代)以降、「覚ゆ(おぼゆ)」へと変化する。
「おもはゆ」→「おもほゆ」→「おぼほゆ」→「おぼゆ」

◇なお、「思ほゆ」の現代仮名遣いは、「おもゆ」と「おもゆ」(無変化)の二説がある。
あなたに指導者がいるのなら、その説に従ってください。

まして :なおさら。いっそう。

偲は(しぬは) :「しのふ」から転じたもので意味は同じ(上代は濁音の「しのぶ」ではなく清音)。
※「偲はゆ」 :自然と偲ばれる。自然に思い出される。
※現代仮名遣いは無変化。

来たり(来り) :四段連用形:やって来る。 ※来至る(きいたる)が転じた形。
※「来(カ変)+たり(完了の助動詞)」(来ている。来た。)ではない。

そ :疑問の終助詞「ぞ」の清音化したもの。~なのか。
※係助詞とする説もある。

眼交(まなかひ) :目の前。

もとな :わけもなく。やたらに。

懸かる :(目に)ちらつく。

安眠(やすい) :落ち着いて眠ること。 ※「安寝」とも書く。

「安眠し」の「し」 :強意の副助詞 ※無理に訳出しなくてもOK。

寝さ(なさ) :上代語:下二段動詞「寝(ぬ)」の他動詞 寝かせる。眠らせる。

「寝さぬ」の「ぬ」 :余情・余韻を表す「連体形止め」。
※この「ぬ」を打消の助動詞「ず」の「古い終止形」とする説もある。

※まれに、「そ」を係助詞とした場合に、「ぬ」(連体形)をその結びとする解説書もあるが、大いに疑問です。
この「そ」を係助詞とした場合は、係助詞の終助詞的用法(文末用法)とするのが一般的で係り結びは発生しない。
同じ山上憶良の歌、「憶良らは~そ」の「そ」と同じ用法です。

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<古典文法の基礎知識>

「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。

◇「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。

◇「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。

◇「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。

◇「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。

◇「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。


<和歌の基礎知識>

◎和歌の文法、用語、和歌集、歌風などについては、「和歌の文法・用語の基礎知識」をどうぞ。

◎和歌の修辞法(表現技法)については、「和歌の修辞法(表現技法)の基礎知識」をどうぞ。


<修辞法(表現技法)>

・対句 :「瓜食めば子ども思ほゆ」 「栗食めばまして偲はゆ」

◇この歌は、「五・七、五・七、五・七、五・七、七」の比較的短い「長歌」ですね。
※長歌 :「五・七」音の句を3回以上繰り返して最後に「七」音の句を加えた和歌。

◇なお、和歌における「句切れ」とは、「短歌」の結句(第五句)以外の句の終りに意味上の切れ目があることです。したがって、この歌のように長歌の場合は、短歌の修辞(表現技法)のように句切れを示しませんが、この歌の句切れを検索している人たちがたまにいるようです。
この歌の意味上の切れ目は、句末が終止形および終助詞となっている「第二句、第四句、第六句」です。


<私の一言>

この「瓜食めば~」と反歌「銀も~」の二首は、子供への強い愛情を詠んだ歌。

神亀5年(728年)7月21日に詠んだ歌とされていて、当時、山上憶良は60代後半であったことから、自分の子供ではなく、世間一般の、親の子供への愛情を詠んだとする説もある。

序文は、すべての煩悩を解脱したはずの釈迦でさえ自分の子供を愛する煩悩があるのだから、世間一般の人や自分などは仏教の戒めの一つである愛執(愛するものに執着すること)という煩悩を越えることなど出来るはずがないという意味。


<和歌索引>

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<古文や和歌の学習書と古語辞典>

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こんばんは。

作者の子供たちにとって、瓜(マクワウリ)や栗は好物だったから。

作者が旅先で瓜や栗を出されて食べていると、「ああ、家にいる子供たちにも食べさせてあげたいなあ」と
おいしそうに瓜や栗を食べていた愛しい子供たちのことが自然と思い出される。
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