奥の細道 平泉 品詞分解と現代語訳
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今回は、松尾芭蕉の「奥の細道 平泉」の原文・現代語訳(口語訳)・品詞分解(文法的説明)・語句の意味・文法解説・対句・鑑賞・おすすめ書籍などについて紹介します。なお、、「漂泊の思ひ・旅立ち」はこちら。⇒ 「立石寺」はこちら。⇒
「奥の細道 平泉」(松尾芭蕉)
<原文>
◇全文の「歴史的仮名遣い・現代仮名遣い・発音・読み方」(ひらがな)は下記の別サイトからどうぞ。
《⇒現代仮名遣いサイトへ行く》
三代の栄耀(えいえう・ええう)一睡(いつすい)のうちにして、大門の跡は一里こなたにあり。秀衡(ひでひら)が跡は田野(でんや)になりて、金鶏山(きんけいざん)のみ形を残す。まづ高館(たかだち)にのぼれば、北上川(きたかみがは)南部より流るる大河(たいが)なり。衣川(ころもがは)は、和泉が城(いづみがじやう)をめぐりて、高館の下(もと)にて大河に落ち入る。泰衡(やすひら)らが旧跡(きうせき)は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、夷(えぞ)を防ぐと見えたり。さても義臣すぐつてこの城にこもり、功名(こうみやう)一時の叢(くさむら)となる。「国破れて山河あり、城春にして草青み(あをみ)たり」と笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
夏草や兵(つはもの)どもが夢の跡
卯の花に兼房(かねふさ)見ゆる白毛(しらが)かな 曾良(そら)
かねて耳驚かしたる二堂(にだう)開帳(かいちやう)す。経堂(きやうだう)は三将(さんしやう)の像(ざう)を残し、光堂(ひかりだう)は三代の棺(ひつぎ)を納め(をさめ)、三尊の仏を安置す。七宝(しつぽう・しちほう)散りうせて、珠(たま)の扉(とびら)風に破れ、金(こがね)の柱霜雪(さうせつ)に朽ちて、すでに頽廃(たいはい)空虚(くうきよ)の叢となるべきを、四面新たに囲みて、甍(いらか)を覆ひ(おほひ)て風雨をしのぐ。しばらく千歳(せんざい)の記念(かたみ)とはなれり。
五月雨(さみだれ)の降り残してや光堂
※「風雨しのぎ、」とする本もある。
<現代語訳>
藤原三代の栄華もひと眠りの間のはかない夢であって、(平泉館の)表門の跡は一里ほど手前にある。秀衡の館の跡は田や野原となって、金鶏山だけが(昔の)形を残している。まず高館に登ると、(眼下に見える)北上川は南部地方から流れてくる大河である。衣川は和泉が城のまわりを流れて、高館の下で、北上川に流れ込んでいる。泰衡たちの旧跡は、衣が関を間に置いて南部地方から平泉への入口を厳重に警護し、えぞ(の侵入)を防いだものと思われる。それにしても(義経は)忠義の家臣たちをよりすぐって高館に立てこもり(奮戦したが)、その功名も一時のことで、今その跡は草むらとなってしまっている。「国は滅びてしまったが、山河は変わることなく昔のままあり、廃墟となった城にも春が来て草が青々と茂っている」と、(杜甫の詩を思い出しながら)笠を置いて腰をおろし、時の経つのも忘れて、涙を流しました。
今、目の前には夏草が一面に茂っている。ここは昔、義経主従や藤原一族が功名を夢見て奮戦した跡なのだなあ。
一面に白く咲く卯の花を見ていると、その昔、ここで白髪を振り乱して奮戦した老臣兼房の姿が目に浮かぶようだよ。 曾良
前から話に聞いて(その立派さに)驚嘆していた二堂が開かれていた。経堂には藤原三代の像を残していて、光堂にはその三代の棺を納め、(そのほかに)三尊の仏像が安置してある。(かつて飾ってあった)七宝も散り失せて、珠玉を散りばめた扉も風のためこわれ、金箔をおした柱も霜や雪のために朽ちて、もう少しで何もない草むらとなるはずだったのに、(堂の)四方を新しくに囲み、屋根瓦をふいて風雨を防いでいる。しばらくの間(とはいえ)遠い昔をしのぶ記念となっているのである。
五月雨もここだけは降り残したのであろうか。この光堂は今も昔の姿をとどめ、燦然(さんぜん)と輝いているよ。
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<品詞分解(文法的説明=文法解釈)>
◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》
※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
※二通りの解釈や説がある場合、「たり【存続(完了)・・・】」などのように示した。
三代の栄耀一睡のうちにして、大門の跡は一里こなたにあり。
三代【名詞】 の【格助詞】 栄耀【名詞】 一睡【名詞】 の【格助詞】 うち【名詞】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 して【接続助詞】、 大門【名詞】 の【格助詞】 跡【名詞】 は【係助詞】 一里【名詞】 こなた【代名詞】 に【格助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の終止形】。
秀衡が跡は田野になりて、金鶏山のみ形を残す。
秀衡【名詞】 が【格助詞】 跡【名詞】 は【係助詞】 田野【名詞】 に【格助詞】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 て【接続助詞】、 金鶏山【名詞】 のみ【副助詞】 形【名詞】 を【格助詞】 残す【サ行四段活用「のこす」の終止形】。
まづ高館にのぼれば、北上川南部より流るる大河なり。
まづ【副詞】 高館【名詞】 に【格助詞】 のぼれ【ラ行四段活用「のぼる」の已然形】 ば【接続助詞】、 北上川【名詞】 南部【名詞】 より【格助詞】 流るる【ラ行下二段活用「ながる」の連体形】 大河【名詞】 なり【断定の助動詞「なり」の終止形】。
衣川は、和泉が城をめぐりて、高館の下にて大河に落ち入る。
衣川【名詞】 は【係助詞】、 和泉が城【名詞】 を【格助詞】 めぐり【ラ行四段活用「めぐる」の連用形】 て【接続助詞】、 高館【名詞】 の【格助詞】 下【名詞】 にて【格助詞】 大河【名詞】 に【格助詞】 落ち入る【ラ行四段活用「おちいる」の終止形】。
泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、夷を防ぐと見えたり。
泰衡ら【名詞】 が【格助詞】 旧跡【名詞】 は【係助詞】、 衣が関【名詞】 を【格助詞】 隔て【タ行下二段活用「へだつ」の連用形】 て【接続助詞】 南部口【名詞】 を【格助詞】 さし固め【マ行下二段活用「さしかたむ」の連用形】、 夷【名詞】 を【格助詞】 防ぐ【ガ行四段活用「ふせぐ」の終止形】 と【格助詞】 見え【ヤ行下二段活用「みゆ」の連用形】 たり【存続(完了)の助動詞「たり」の終止形】。
さても義臣すぐつてこの城にこもり、功名一時の叢となる。
さても【接続詞】 義臣【名詞】 すぐつ【ラ行四段活用「すぐる」の連用形:「すぐり」の促音便】 て【接続助詞】 こ【代名詞】 の【格助詞】 城【名詞】 に【格助詞】 こもり【ラ行四段活用「こもる」の連用形】、 功名【名詞】 一時【名詞】 の【格助詞】 叢【名詞】 と【格助詞】 なる【ラ行四段活用「なる」の終止形】。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」
「国【名詞】 破れ【ラ行下二段活用「やぶる」の連用形】 て【接続助詞】 山河【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】、 城【名詞】 春【名詞】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 して【接続助詞】 草【名詞】 青み【マ行四段活用「あをむ」の連用形】 たり【存続の助動詞「たり」の終止形】」
と笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
と【格助詞】 笠【名詞】 うち敷き【カ行四段活用「うちしく」の連用形】 て【接続助詞】、 時【名詞】 の【格助詞】 移る【ラ行四段活用「うつる」の連体形】 まで【副助詞】 涙【名詞】 を【格助詞】 落とし【サ行四段活用「おとす」の連用形】 侍り【ラ行変格活用「はべり」の連用形:丁寧の補助動詞】 ぬ【完了の助動詞「ぬ」の終止形】。
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夏草や兵どもが夢の跡
夏草【名詞】 や【間投助詞】 兵ども【名詞】 が【格助詞】 夢【名詞】 の【格助詞】 跡【名詞】
卯の花に兼房見ゆる白毛かな 曾良
卯【名詞】 の【格助詞】 花【名詞】 に【格助詞】 兼房【名詞】 見ゆる【ヤ行下二段活用「みゆ」の連体形】 白毛【名詞】 かな【終助詞】 曾良
かねて耳驚かしたる二堂開帳す。
かねて【副詞】 耳【名詞】 驚かし【サ行四段活用「おどろかす」連用形】 たる【存続の助動詞「たり」の連体形】 二堂【名詞】 開帳す【サ行変格活用「かいちやうす」の終止形】。
経堂は三将の像を残し、光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。
経堂【名詞】 は【係助詞】 三将【名詞】 の【格助詞】 像【名詞】 を【格助詞】 残し【サ行四段活用「のこす」の連用形】、 光堂【名詞】 は【係助詞】 三代【名詞】 の【格助詞】 棺【名詞】 を【格助詞】 納め【マ行下二段活用「をさむ」の連用形】、 三尊【名詞】 の【格助詞】 仏【名詞】 を【格助詞】 安置す【サ行変格活用「あんちす」の終止形】。
七宝散りうせて、珠の扉風に破れ、金の柱霜雪に朽ちて、
七宝【名詞】 散りうせ【サ行下二段活用「ちりうす」の連用形】 て【接続助詞】、 珠【名詞】 の【格助詞】 扉【名詞】 風【名詞】 に【格助詞】 破れ【ラ行下二段活用「やぶる」の連用形】、 金【名詞】 の【格助詞】 柱【名詞】 霜雪【名詞】 に【格助詞】 朽ち【タ行上二段活用「くつ」の連用形】 て【接続助詞】、
すでに頽廃空虚の叢となるべきを、四面新たに囲みて、
すでに【副詞】 頽廃【名詞】 空虚【名詞】 の【格助詞】 叢【名詞】 と【格助詞】 なる【ラ行四段活用「なる」の終止形】 べき【当然の助動詞「べし」の連体形】 を【接続助詞】、 四面【名詞】 新たに【形容動詞ナリ活用「あらたなり」の連用形】 囲み【マ行四段活用「かこむ」の連用形】 て【接続助詞】、
甍を覆ひて風雨をしのぐ。しばらく千歳の記念とはなれり。
甍【名詞】 を【格助詞】 覆ひ【ハ行四段活用「おほふ」の連用形】 て【接続助詞】 風雨【名詞】 を【格助詞】 しのぐ【ガ行四段活用「しのぐ」の終止形】。 しばらく【副詞】 千歳【名詞】 の【格助詞】 記念【名詞】 と【格助詞】 は【係助詞】 なれ【ラ行四段活用「なる」の已然形】 り【存続の助動詞「り」の終止形】。
※「しのぎ、」【ガ行四段活用「しのぐ」の連用形】とする本もある。
五月雨の降り残してや光堂
五月雨【名詞】 の【格助詞】 降り残し【サ行四段活用「ふりのこす」の連用形】 て【接続助詞】 や【係助詞】 光堂【名詞】
※や【間投助詞】とする立場もある。
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<古典文法の基礎知識>
「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。
◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。
◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。
◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。
◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。
◆「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。
<語句・文法解説>
◆主な助動詞や助詞の意味などについては、上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。
三代の栄耀
藤原氏三代(清衡(きよひら)・基衡(もとひら)・秀衡(ひでひら))の栄華。清衡は後三年の役のあと奥州の鎮守府将軍となり、1094年に平泉に館を築く。1189年に秀衡の子である泰衡(やすひら)が源頼朝に滅ぼされるまでの96年間奥州を支配し、寺院を建立、平泉に京風文化を移植した。
一睡のうち :ひと眠りの短い時間。 ※はかないことのたとえ。
※人間の栄華のはかなさを表す中国の故事「黄粱一炊の夢(こうりょういっすいのゆめ)」を踏まえた表現。
大門 :城郭や寺などの総門・表門・正門のこと。
※毛越寺(もうつじ)の南大門を平泉館の門と間違えたとする説が有力。
こなた :手前。
秀衡が跡 :秀衡が造った伽羅御所(きゃらごしょ)の跡。 「が」 :連体格の格助詞 ~の。
金鶏山 :秀衡が平泉鎮護のために築いた山。形を富士山に見立て、山頂に黄金作りの鶏を埋めたといわれている。
高館 :源義経が秀衡の保護を受けて住んでいた館。義経はここで泰衡に襲われ自害した。
衣川 :歌枕。 北上川に合流する川。
※「歌枕」=和歌の題材として詠まれた諸国の名所。
和泉が城 :秀衡の三男和泉三郎忠衡の居城。忠衡は亡父の遺命を守り、最後まで義経を助けて死んだ。
泰衡 :秀衡の二男。亡父の遺志に反して源頼朝の命に従い義経を討ったが、後に頼朝に攻め滅ぼされた。
「泰衡ら」の「ら」 :接尾語。 主に人を表す体言に付いて複数を表わす。
衣が関 :歌枕。 高館の北東にあった関所。
さし固め(鎖し固め) :厳重に警護する。
夷 :当時、北関東から東北・北海道にかけて住んでいた種族。
さても :ところで。それにしても。
義臣 :忠義の臣。ここでは主に義経の臣下の武蔵坊弁慶・伊勢三郎などをさす。
すぐつて :「すぐりて」の促音便。 よりすぐって。 ※主語は義経。
「この城にこもり」の「この城」=高館。
「功名一時の叢となる」 :俳文独特の省略した表現。
「功名を立てたが、それも一時の間のことで、はかなく消え、今その跡はただの草むらとなってしまっている。」という意味。
※功名=手柄を立て、名をあげること。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」 :杜甫の「春望」を典拠としている。 春望の「深し」を「青みたり」に言いかえたもの。
※典拠(てんきょ)=もとになった確かなより所。
「笠うち敷き」 :笠を置いて腰をおろす。 ※(笠をお尻の下に敷いたのではありませんよ。)
「うち敷き」の「うち」:接頭語:①語調を整える語。②ほんの少し。
◇無理に訳出しなくてもよい主な接頭語 :「うち」、「たち」、「かき」、「さし」
「時のうつる」 :「移る(うつる)」=時間が経過する。
「落とし侍りぬ」の「侍り」 :丁寧の補助動詞 ~ます。
※「敬意の主体」(作者)→「敬意の対象」(読者)への敬意。
◇「夏草や兵どもが夢の跡」
・季語 :「夏草」 季節=夏
・切れ字 :「や」
・体言止め :「跡」
・句切れ :初句切れ
※「兵ども」 :源義経主従や藤原三代のこと。 「ども」は、複数を表わす接尾語。
※「夢」 :兵どもの功名や栄華の夢。
◆切れ字=連歌・俳諧・俳句で句を切るのに用いられる活用語の言い切りの形(終止形・命令形)、助詞、助動詞。切れ字となる助詞は「や・か・ぞ・かな」など、助動詞は「けり・ず・らん」など。
◇「卯の花に兼房見ゆる白毛かな 曾良」
・季語 :「卯の花」 季節=夏
・切れ字 :「かな」
※曾良(そら) :河合曾良。1649年~1710年。芭蕉に従って「奥の細道」の旅をし、この時の記録を「曾良旅日記」に残す。
※兼房 :増尾十郎兼房。義経の家臣。衣川の合戦で白髪を振り乱して奮戦し、義経の最期を見届けて戦死した。
かねて :前から。
「耳驚かす」 :話に聞いて驚嘆していた。
二堂 :中尊寺の経堂と光堂のこと。
開帳す :厨子(ずし)の扉を開いて、中の秘仏を人に見せる。
経堂 :経典を納める堂。
三将=三代 :藤原氏三代(清衡・基衡・秀衡)のこと。
※実際には三将の像はないので、芭蕉は見ていないで書いたとする説が有力。
光堂 :清衡が建立した金色堂。
三尊 :中央の阿弥陀如来(あみだにょらい)・左の勢至菩薩(せいしぼさつ)・右の観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)のこと。
七宝 :仏教でいう七つの宝。
※阿弥陀経では、金(こん)・銀(ごん)・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・瑪瑙(めのう) 硨磲(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)
※無量寿経では、金・銀・瑠璃・玻璃・瑪瑙・硨磲・珊瑚(さんご)
※法華経では、金・銀・瑪瑙・瑠璃・硨磲・真珠(しんじゅ)・玫瑰(まいかい)
珠の扉 :珠玉(しゅぎょく)を散りばめた扉。
金の柱霜雪に朽ちて
すでに :もう少しで。あやうく。
頽廃空虚 :壊れすたれて何もなくなること。
四面新たに囲みて :1288年に鎌倉将軍惟康親王が堂の上を覆う鞘堂(さやどう)を建てたことをさす。
甍 :瓦ぶきの屋根。または、屋根瓦。
千歳の記念 :遠い昔をしのぶことができる記念物。
◇「五月雨の降り残してや光堂」
・季語 :「五月雨」 季節=夏
・切れ字 :「や」
・体言止め :「光堂」
・句切れ :二句切れ
※「や」は疑問の係助詞。
<対句>
「国破れて山河あり」 「城春にして草青みたり」
「経堂は三将の像を残し」 「光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す」
※(「三代の棺を納め」 「三尊の仏を安置す」)も対句
「珠の扉風に破れ」 「金の柱霜雪に朽ちて」
<鑑賞・私の一言>
前半は、時が推移する中で、自然を恒久不変の永遠なるもの、人間を流転変化するはかないものとして対比。後半は、はかない人間が作った建造物が今なお当時の趣を残していることへの感動を述べている。
また、漢語、対句、数詞を多用することで力強さと文章にリズム感を生みだしている。
「奥の細道」(おくのほそみち)
作者=松尾芭蕉(「現」まつおばしょう・「歴」まつをばせう)
成立=江戸時代前期
文学ジャンル=「(俳諧)紀行文」
予想テスト問題は、気分が乗ったらいずれ追記します。
<このブログに収録済みの品詞分解作品>
品詞分解:ブログ収録作品一覧
<古文の学習書と古語辞典>
古文を学ぶための学習書や古語辞典については、おすすめ書籍を紹介した下の各記事を見てね。
《⇒古文学習書の記事へ》
《⇒品詞分解付き対訳書の記事へ》
《⇒古語辞典の記事へ》
◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》
※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
※二通りの解釈や説がある場合、「たり【存続(完了)・・・】」などのように示した。
三代の栄耀一睡のうちにして、大門の跡は一里こなたにあり。
三代【名詞】 の【格助詞】 栄耀【名詞】 一睡【名詞】 の【格助詞】 うち【名詞】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 して【接続助詞】、 大門【名詞】 の【格助詞】 跡【名詞】 は【係助詞】 一里【名詞】 こなた【代名詞】 に【格助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の終止形】。
秀衡が跡は田野になりて、金鶏山のみ形を残す。
秀衡【名詞】 が【格助詞】 跡【名詞】 は【係助詞】 田野【名詞】 に【格助詞】 なり【ラ行四段活用「なる」の連用形】 て【接続助詞】、 金鶏山【名詞】 のみ【副助詞】 形【名詞】 を【格助詞】 残す【サ行四段活用「のこす」の終止形】。
まづ高館にのぼれば、北上川南部より流るる大河なり。
まづ【副詞】 高館【名詞】 に【格助詞】 のぼれ【ラ行四段活用「のぼる」の已然形】 ば【接続助詞】、 北上川【名詞】 南部【名詞】 より【格助詞】 流るる【ラ行下二段活用「ながる」の連体形】 大河【名詞】 なり【断定の助動詞「なり」の終止形】。
衣川は、和泉が城をめぐりて、高館の下にて大河に落ち入る。
衣川【名詞】 は【係助詞】、 和泉が城【名詞】 を【格助詞】 めぐり【ラ行四段活用「めぐる」の連用形】 て【接続助詞】、 高館【名詞】 の【格助詞】 下【名詞】 にて【格助詞】 大河【名詞】 に【格助詞】 落ち入る【ラ行四段活用「おちいる」の終止形】。
泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさし固め、夷を防ぐと見えたり。
泰衡ら【名詞】 が【格助詞】 旧跡【名詞】 は【係助詞】、 衣が関【名詞】 を【格助詞】 隔て【タ行下二段活用「へだつ」の連用形】 て【接続助詞】 南部口【名詞】 を【格助詞】 さし固め【マ行下二段活用「さしかたむ」の連用形】、 夷【名詞】 を【格助詞】 防ぐ【ガ行四段活用「ふせぐ」の終止形】 と【格助詞】 見え【ヤ行下二段活用「みゆ」の連用形】 たり【存続(完了)の助動詞「たり」の終止形】。
さても義臣すぐつてこの城にこもり、功名一時の叢となる。
さても【接続詞】 義臣【名詞】 すぐつ【ラ行四段活用「すぐる」の連用形:「すぐり」の促音便】 て【接続助詞】 こ【代名詞】 の【格助詞】 城【名詞】 に【格助詞】 こもり【ラ行四段活用「こもる」の連用形】、 功名【名詞】 一時【名詞】 の【格助詞】 叢【名詞】 と【格助詞】 なる【ラ行四段活用「なる」の終止形】。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」
「国【名詞】 破れ【ラ行下二段活用「やぶる」の連用形】 て【接続助詞】 山河【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】、 城【名詞】 春【名詞】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 して【接続助詞】 草【名詞】 青み【マ行四段活用「あをむ」の連用形】 たり【存続の助動詞「たり」の終止形】」
と笠うち敷きて、時の移るまで涙を落とし侍りぬ。
と【格助詞】 笠【名詞】 うち敷き【カ行四段活用「うちしく」の連用形】 て【接続助詞】、 時【名詞】 の【格助詞】 移る【ラ行四段活用「うつる」の連体形】 まで【副助詞】 涙【名詞】 を【格助詞】 落とし【サ行四段活用「おとす」の連用形】 侍り【ラ行変格活用「はべり」の連用形:丁寧の補助動詞】 ぬ【完了の助動詞「ぬ」の終止形】。
夏草や兵どもが夢の跡
夏草【名詞】 や【間投助詞】 兵ども【名詞】 が【格助詞】 夢【名詞】 の【格助詞】 跡【名詞】
卯の花に兼房見ゆる白毛かな 曾良
卯【名詞】 の【格助詞】 花【名詞】 に【格助詞】 兼房【名詞】 見ゆる【ヤ行下二段活用「みゆ」の連体形】 白毛【名詞】 かな【終助詞】 曾良
かねて耳驚かしたる二堂開帳す。
かねて【副詞】 耳【名詞】 驚かし【サ行四段活用「おどろかす」連用形】 たる【存続の助動詞「たり」の連体形】 二堂【名詞】 開帳す【サ行変格活用「かいちやうす」の終止形】。
経堂は三将の像を残し、光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。
経堂【名詞】 は【係助詞】 三将【名詞】 の【格助詞】 像【名詞】 を【格助詞】 残し【サ行四段活用「のこす」の連用形】、 光堂【名詞】 は【係助詞】 三代【名詞】 の【格助詞】 棺【名詞】 を【格助詞】 納め【マ行下二段活用「をさむ」の連用形】、 三尊【名詞】 の【格助詞】 仏【名詞】 を【格助詞】 安置す【サ行変格活用「あんちす」の終止形】。
七宝散りうせて、珠の扉風に破れ、金の柱霜雪に朽ちて、
七宝【名詞】 散りうせ【サ行下二段活用「ちりうす」の連用形】 て【接続助詞】、 珠【名詞】 の【格助詞】 扉【名詞】 風【名詞】 に【格助詞】 破れ【ラ行下二段活用「やぶる」の連用形】、 金【名詞】 の【格助詞】 柱【名詞】 霜雪【名詞】 に【格助詞】 朽ち【タ行上二段活用「くつ」の連用形】 て【接続助詞】、
すでに頽廃空虚の叢となるべきを、四面新たに囲みて、
すでに【副詞】 頽廃【名詞】 空虚【名詞】 の【格助詞】 叢【名詞】 と【格助詞】 なる【ラ行四段活用「なる」の終止形】 べき【当然の助動詞「べし」の連体形】 を【接続助詞】、 四面【名詞】 新たに【形容動詞ナリ活用「あらたなり」の連用形】 囲み【マ行四段活用「かこむ」の連用形】 て【接続助詞】、
甍を覆ひて風雨をしのぐ。しばらく千歳の記念とはなれり。
甍【名詞】 を【格助詞】 覆ひ【ハ行四段活用「おほふ」の連用形】 て【接続助詞】 風雨【名詞】 を【格助詞】 しのぐ【ガ行四段活用「しのぐ」の終止形】。 しばらく【副詞】 千歳【名詞】 の【格助詞】 記念【名詞】 と【格助詞】 は【係助詞】 なれ【ラ行四段活用「なる」の已然形】 り【存続の助動詞「り」の終止形】。
※「しのぎ、」【ガ行四段活用「しのぐ」の連用形】とする本もある。
五月雨の降り残してや光堂
五月雨【名詞】 の【格助詞】 降り残し【サ行四段活用「ふりのこす」の連用形】 て【接続助詞】 や【係助詞】 光堂【名詞】
※や【間投助詞】とする立場もある。
<古典文法の基礎知識>
「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。
◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。
◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。
◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。
◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。
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<語句・文法解説>
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三代の栄耀
藤原氏三代(清衡(きよひら)・基衡(もとひら)・秀衡(ひでひら))の栄華。清衡は後三年の役のあと奥州の鎮守府将軍となり、1094年に平泉に館を築く。1189年に秀衡の子である泰衡(やすひら)が源頼朝に滅ぼされるまでの96年間奥州を支配し、寺院を建立、平泉に京風文化を移植した。
一睡のうち :ひと眠りの短い時間。 ※はかないことのたとえ。
※人間の栄華のはかなさを表す中国の故事「黄粱一炊の夢(こうりょういっすいのゆめ)」を踏まえた表現。
大門 :城郭や寺などの総門・表門・正門のこと。
※毛越寺(もうつじ)の南大門を平泉館の門と間違えたとする説が有力。
こなた :手前。
秀衡が跡 :秀衡が造った伽羅御所(きゃらごしょ)の跡。 「が」 :連体格の格助詞 ~の。
金鶏山 :秀衡が平泉鎮護のために築いた山。形を富士山に見立て、山頂に黄金作りの鶏を埋めたといわれている。
高館 :源義経が秀衡の保護を受けて住んでいた館。義経はここで泰衡に襲われ自害した。
衣川 :歌枕。 北上川に合流する川。
※「歌枕」=和歌の題材として詠まれた諸国の名所。
和泉が城 :秀衡の三男和泉三郎忠衡の居城。忠衡は亡父の遺命を守り、最後まで義経を助けて死んだ。
泰衡 :秀衡の二男。亡父の遺志に反して源頼朝の命に従い義経を討ったが、後に頼朝に攻め滅ぼされた。
「泰衡ら」の「ら」 :接尾語。 主に人を表す体言に付いて複数を表わす。
衣が関 :歌枕。 高館の北東にあった関所。
さし固め(鎖し固め) :厳重に警護する。
夷 :当時、北関東から東北・北海道にかけて住んでいた種族。
さても :ところで。それにしても。
義臣 :忠義の臣。ここでは主に義経の臣下の武蔵坊弁慶・伊勢三郎などをさす。
すぐつて :「すぐりて」の促音便。 よりすぐって。 ※主語は義経。
「この城にこもり」の「この城」=高館。
「功名一時の叢となる」 :俳文独特の省略した表現。
「功名を立てたが、それも一時の間のことで、はかなく消え、今その跡はただの草むらとなってしまっている。」という意味。
※功名=手柄を立て、名をあげること。
「国破れて山河あり、城春にして草青みたり」 :杜甫の「春望」を典拠としている。 春望の「深し」を「青みたり」に言いかえたもの。
※典拠(てんきょ)=もとになった確かなより所。
「笠うち敷き」 :笠を置いて腰をおろす。 ※(笠をお尻の下に敷いたのではありませんよ。)
「うち敷き」の「うち」:接頭語:①語調を整える語。②ほんの少し。
◇無理に訳出しなくてもよい主な接頭語 :「うち」、「たち」、「かき」、「さし」
「時のうつる」 :「移る(うつる)」=時間が経過する。
「落とし侍りぬ」の「侍り」 :丁寧の補助動詞 ~ます。
※「敬意の主体」(作者)→「敬意の対象」(読者)への敬意。
◇「夏草や兵どもが夢の跡」
・季語 :「夏草」 季節=夏
・切れ字 :「や」
・体言止め :「跡」
・句切れ :初句切れ
※「兵ども」 :源義経主従や藤原三代のこと。 「ども」は、複数を表わす接尾語。
※「夢」 :兵どもの功名や栄華の夢。
◆切れ字=連歌・俳諧・俳句で句を切るのに用いられる活用語の言い切りの形(終止形・命令形)、助詞、助動詞。切れ字となる助詞は「や・か・ぞ・かな」など、助動詞は「けり・ず・らん」など。
◇「卯の花に兼房見ゆる白毛かな 曾良」
・季語 :「卯の花」 季節=夏
・切れ字 :「かな」
※曾良(そら) :河合曾良。1649年~1710年。芭蕉に従って「奥の細道」の旅をし、この時の記録を「曾良旅日記」に残す。
※兼房 :増尾十郎兼房。義経の家臣。衣川の合戦で白髪を振り乱して奮戦し、義経の最期を見届けて戦死した。
かねて :前から。
「耳驚かす」 :話に聞いて驚嘆していた。
二堂 :中尊寺の経堂と光堂のこと。
開帳す :厨子(ずし)の扉を開いて、中の秘仏を人に見せる。
経堂 :経典を納める堂。
三将=三代 :藤原氏三代(清衡・基衡・秀衡)のこと。
※実際には三将の像はないので、芭蕉は見ていないで書いたとする説が有力。
光堂 :清衡が建立した金色堂。
三尊 :中央の阿弥陀如来(あみだにょらい)・左の勢至菩薩(せいしぼさつ)・右の観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)のこと。
七宝 :仏教でいう七つの宝。
※阿弥陀経では、金(こん)・銀(ごん)・瑠璃(るり)・玻璃(はり)・瑪瑙(めのう) 硨磲(しゃこ)・赤珠(しゃくしゅ)
※無量寿経では、金・銀・瑠璃・玻璃・瑪瑙・硨磲・珊瑚(さんご)
※法華経では、金・銀・瑪瑙・瑠璃・硨磲・真珠(しんじゅ)・玫瑰(まいかい)
珠の扉 :珠玉(しゅぎょく)を散りばめた扉。
金の柱霜雪に朽ちて
すでに :もう少しで。あやうく。
頽廃空虚 :壊れすたれて何もなくなること。
四面新たに囲みて :1288年に鎌倉将軍惟康親王が堂の上を覆う鞘堂(さやどう)を建てたことをさす。
甍 :瓦ぶきの屋根。または、屋根瓦。
千歳の記念 :遠い昔をしのぶことができる記念物。
◇「五月雨の降り残してや光堂」
・季語 :「五月雨」 季節=夏
・切れ字 :「や」
・体言止め :「光堂」
・句切れ :二句切れ
※「や」は疑問の係助詞。
<対句>
「国破れて山河あり」 「城春にして草青みたり」
「経堂は三将の像を残し」 「光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す」
※(「三代の棺を納め」 「三尊の仏を安置す」)も対句
「珠の扉風に破れ」 「金の柱霜雪に朽ちて」
<鑑賞・私の一言>
前半は、時が推移する中で、自然を恒久不変の永遠なるもの、人間を流転変化するはかないものとして対比。後半は、はかない人間が作った建造物が今なお当時の趣を残していることへの感動を述べている。
また、漢語、対句、数詞を多用することで力強さと文章にリズム感を生みだしている。
「奥の細道」(おくのほそみち)
作者=松尾芭蕉(「現」まつおばしょう・「歴」まつをばせう)
成立=江戸時代前期
文学ジャンル=「(俳諧)紀行文」
予想テスト問題は、気分が乗ったらいずれ追記します。
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