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伊勢物語 第9段 東下り 品詞分解と現代語訳

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 今回は、「伊勢物語 第9段 東下り(あづまくだり)」全文の原文・現代語訳(口語訳)・品詞分解(文法的説明)・敬語(敬意の方向)・語句の意味・文法解説・係り結び・鑑賞・おすすめ書籍などについて紹介します。


「伊勢物語 第9段 東下り(あづまくだり)」


<原文>

◇全文の「現代仮名遣い・発音・読み方(ひらがな)」は下記の別サイトからどうぞ。
《⇒現代仮名遣いサイトへ行く》

第一部
 昔、男(をとこ)ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京(きやう)にはあらじ、東(あづま)の方(かた)に住むべき国求めにとて行き(ゆき)けり。もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり。道知れる人もなくて、惑ひいき(まどひいき)けり。三河(みかは)の国、八橋(やつはし)といふ所に至りぬ。そこを八橋といひけるは、水(みづ)ゆく河(かは)の蜘蛛手(くもで)なれば、橋を八つ(やつ)渡せるによりてなむ八橋といひける。その沢(さは)のほとりの木の陰に下りゐ(おりゐ)て、乾飯(かれいひ)食ひけり。その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字(いつもじ)を句の上(かみ)に据ゑ(すゑ)て、旅の心をよめ」と言ひければ、よめる。

  唐衣(からころも)きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

とよめりければ、みな人、乾飯の上(うへ)に涙落として、ほとびにけり。

第二部
 行き行き(ゆきゆき)て、駿河(するが)の国に至り(いたり)ぬ。宇津(うつ)の山に至りて、わが入ら(いら)むとする道は、いと暗う細きに、蔦(つた)・楓(かへで)は茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者(すぎやうざ)会ひたり。「かかる道は、いかでかいまする」と言ふを見れば、見し人なりけり。京に、その人の御もとにとて、文(ふみ)書きてつく。

  駿河なる宇津の山べのうつつにも夢にも人にあはぬなりけり

 富士の山を見れば、五月(さつき)のつごもりに、雪いと白う降れり。

  時知らぬ山は富士の嶺(ふじのね)いつとてか鹿の子(かのこ)まだらに雪の降るらむ

 その山は、ここにたとへば、比叡の山(ひえのやま)を二十(はたち)ばかり重ねあげたらむほどして、なりは塩尻(しほじり)のやうになむありける。

第三部
 なほ行き行きて、武蔵(むさし)の国と下つ総(しもつふさ)の国との中に、いと大きなる(おほきなる)河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりに群れゐて思ひやれば、限りなく遠く(とほく)も来(き)にけるかなとわび合へるに、渡し守(わたしもり)、「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」と言ふに、乗りて渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折り(をり)しも、白き鳥の嘴(はし)と脚(あし)と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水の上に遊びつつ魚(いを)を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥(みやこどり)」と言ふを聞きて、

  名にし負は(おは)ばいざこと問は(とは)む都鳥わが思ふ人はありやなしやと

とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。


<現代語訳>

第一部
 昔、(ある)男がいた。その男は、自分を(都にいても)役に立たないものと思い込んで、(もう)京にはおるまい、東国のほうに、(新しく)住むのによい国を探しに(行こう)と思って出かけた。以前から友人としている人、一人、二人といっしょに出かけた。(一行の中には東国への)道を知っている人もいなくて、(道に)迷いながら行った。(そのうちに)三河の国、八橋という所に着いた。そこを八橋といったのは、水の流れて行く河が蜘蛛の手足である(=蜘蛛の手足のように八方に分かれて流れている)ので、橋を八つ渡してあることから、八橋というのであった。(一行は)その沢のほとりの木の陰に(馬から)下りて座って、乾飯を食べた。その沢にかきつばたが、たいそう美しく咲いている。それを見て、ある人が言うことには、「《か・き・つ・ば・た》という五つの文字を(一字ずつ和歌の各)句の頭に置いて、旅の気持ちを詠め」と言ったので、(男=主人公の昔男が)詠んだ(次の)歌。

  着つづけて体になじんだ唐衣のように、なれ親しんだ妻が都にいるので、都を遠く離れてはるばる来てしまった旅をしみじみと思うことだ。

と詠んだので、(一行の)だれもかれもが、(悲しくなり)乾飯の上に涙を落として、(水分を含んだ乾飯は)ふやけてしまった。
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第二部
 (一行は東の方へ)どんどん進んで行って、駿河の国に着いた。宇津の山にさしかかって、自分が(これから)入ろうとする(山)道は、たいそう暗く細い上に、蔦(つた)や楓(かえで)が生い茂り、なんとなく心細く、思いがけない(ひどい)目にあうことと思っていると、修行者が(やって来て、一行に)出会った。「このような(さびしい山)道には、どういうわけでいらっしゃるのですか」と言うのを見ると、(その修行者は男がかつて都で)会った(ことのある)人であったよ。(そこで)都に(いる)、(いとしい)あの人の所に(届けてほしい)と思って、手紙を書いて(都へ向かう修行者に)ことづける。(その手紙に添えた歌は、)

  駿河の国にある宇津の山のほとりに来て、その「うつ」という名のように、「うつつ(現実)」にはもちろん夢の中でも恋しいあなたに逢わないことだなあ。(それは、あなたが私のことを思っていて下さらないからなのでしょう。)

富士の山を見ると、(夏の盛りの)五月の下旬(だというの)に、雪がたいそう白く降り積っている。(そこで、次の歌を詠んだ。)

  季節を知らない山は富士山であるなあ。今をいつと思って鹿の子模様のまだらに雪が降り積もっているのだろうか。
  
その(富士の)山は、ここ(都の山)でたえるならば、比叡山を二十ほど積み重ねたような高さで、形は(円錐形の)塩尻のようであった。

第三部
 さらに、(東の方へ)どんどん進んで行って(みると)、武蔵の国と下総の国との間に、たいそう大きな河がある。それを隅田川という。(一行は)その隅田川のほとりに集まり座って(はるか遠い都に)思いをはせると、この上なく遠く(まで)も来てしまったものだなあと互いに嘆きあっていると、渡し船の船頭が、「早く舟に乗れ、日も暮れてしまう」というので、(船に)乗って(向こう岸へ)渡ろうとするのだが、だれもかれもなんとなく悲しくて、(それぞれ)都に思う人がいないわけではない。ちょうどそのような(都を恋しく思っている)とき、白い鳥で嘴と足とが赤くて、鴫(ほど)の大きさである鳥が、水の上で自由に動きまわりながら魚を食べている。都では見かけない鳥であるので、だれも(その鳥を)見知っていない。渡し守に尋ねたところ、「これが都鳥(だよ)」というのを聞いて、

  都という名を持っているのならば、(都のことをよく知っているだろうから、)さあ、尋ねよう、都鳥よ。私の恋しく思っているあの人は無事でいるのか、いないのかと。

と詠んだので、舟(に乗っている人)は一人残らず(感極まって)泣いてしまった。

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<品詞分解(文法的説明=文法解釈)>

◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》

 ※※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
 ※二通りの解釈や説がある場合、「べき【適当(可能)・・・】」などのように示した。

第一部
 昔、男ありけり。
 昔【名詞】、 男【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、
そ【代名詞】 の【格助詞】 男【名詞】、 身【名詞】 を【格助詞】 えうなき【形容詞ク活用「えうなし」の連体形】 もの【名詞】 に【格助詞】 思ひなし【サ行四段活用「おもひなす」の連用形】 て【接続助詞】、 「京【名詞】 に【格助詞】 は【係助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 じ【打消意志の助動詞「じ」の終止形】、 

東の方に住むべき国求めにとて行きけり。
東【名詞】 の【格助詞】 方【名詞】 に【格助詞】 住む【マ行四段活用「すむ」の終止形】 べき【適当(可能)の助動詞「べし」の連体形】 国【名詞】 求め【マ行四段活用「もとむ」の連用形】 に【格助詞】 と【格助詞】 て【接続助詞】 行き【カ行四段活用「ゆく」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。
※とて【格助詞】とする立場もある。以下も同じ。

もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり。
もと【名詞】 より【格助詞】 友【名詞】 と【格助詞】 する【サ行変格活用「す」の連体形】 人【名詞】、 ひとり【名詞】 ふたり【名詞】 して【格助詞】 いき【カ行四段活用「いく」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

道知れる人もなくて、惑ひいきけり。
道【名詞】 知れ【ラ行四段活用「しる」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】 人【名詞】 も【係助詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】 て【接続助詞】、 惑ひいき【カ行四段活用「まどひいく」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

三河の国、八橋といふ所に至りぬ。
三河の国【名詞】、 八橋【名詞】 と【格助詞】 いふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 所【名詞】 に【格助詞】 至り【ラ行四段活用「いたる」の連用形】 ぬ【完了の助動詞「ぬ」の終止形】。

そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、
そこ【代名詞】 を【格助詞】 八橋【名詞】 と【格助詞】 いひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】  は【係助詞】、 水【名詞】 ゆく【カ行四段活用「ゆく」の連体形】 河【名詞】 の【格助詞】 蜘蛛手【名詞】 なれ【断定の助動詞「なり」の已然形】 ば【接続助詞】、 

橋を八つ渡せるによりてなむ八橋といひける。
橋【名詞】 を【格助詞】 八つ【名詞】 渡せ【サ行四段活用「わたす」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】  に【格助詞】 より【ラ行四段活用「よる」の連用形】 て【接続助詞】 なむ【係助詞】 八橋【名詞】 と【格助詞】 いひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】。

その沢のほとりの木の陰に下りゐて、乾飯食ひけり。
そ【代名詞】 の【格助詞】 沢【名詞】 の【格助詞】 ほとり【名詞】 の【格助詞】 木【名詞】 の【格助詞】 陰【名詞】 に【格助詞】 下りゐ【ワ行上一段活用「おりゐる」の連用形】 て【接続助詞】、 乾飯【名詞】 食ひ【ハ行四段活用「くふ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり。
そ【代名詞】 の【格助詞】 沢【名詞】 に【格助詞】 かきつばた【名詞】 いと【副詞】 おもしろく【形容詞ク活用「おもしろし」の連用形】 咲き【カ行四段活用「さく」の連用形】 たり【存続の助動詞「たり」の終止形】。

それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて、
それ【代名詞】 を【格助詞】 見【マ行上一段活用「みる」の連用形】 て【接続助詞】、 ある【連体詞】 人【名詞】 の【格助詞】 いは【ハ行四段活用「いふ」の未然形】 く【接尾語(準体助詞)】、 「かきつばた【名詞】 と【格助詞】 いふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 五文字【名詞】 を【格助詞】 句【名詞】 の【格助詞】 上【名詞】 に【格助詞】 据ゑ【ワ行下二段活用「すう」の連用形】 て【接続助詞】、 

旅の心をよめ」と言ひければ、よめる。
旅【名詞】 の【格助詞 】 心【名詞】 を【格助詞】 よめ【マ行四段活用「よむ」の命令形】」 と【格助詞】 言ひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 よめ【マ行四段活用「よむ」の已然形】 る【完了の助動詞「り」の連体形】。

■和歌「唐衣~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・唐衣~】からどうぞ。

とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落として、ほとびにけり。
と【格助詞】 よめ【マ行四段活用「よむ」の已然形】 り【完了の助動詞「り」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 みな人【名詞】、 乾飯【名詞】 の【格助詞】 上【名詞】 に【格助詞】 涙【名詞】 落とし【サ行四段活用「おとす」の連用形】 て【接続助詞】 ほとび【バ行上二段活用「ほとぶ」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

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第二部
 行き行きて、駿河の国に至りぬ。
 行き行き【カ行四段活用「ゆきゆく」の連用形】 て【接続助詞】 駿河の国【名詞】 に【格助詞】 至り【ラ行四段活用「いたる」の連用形】 ぬ【完了の助動詞「ぬ」の終止形】。

宇津の山に至りて、わが入らむとする道は、いと暗う細きに、
宇津の山【名詞】 に【格助詞】 至り【ラ行四段活用「いたる」の連用形】 て【接続助詞】、 わ【代名詞】 が【格助詞】  入ら【ラ行四段活用「いる」の未然形】 む【意志の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】 する【サ行変格活用「す」の連体形】 道【名詞】 は【係助詞】 いと【副詞】 暗う【形容詞ク活用「くらし」の連用形:「暗く」のウ音便】 細き【形容詞ク活用「ほそし」の連体形】 に【格助詞】、

蔦・楓は茂り、もの心細く、すずろなるめを見ることと思ふに、修行者会ひたり。
蔦【名詞】・楓【名詞】 は【係助詞】 茂り【ラ行四段活用「しげる」の連体形】、 もの心細く【形容詞ク活用「ものこころぼそし」の連用形】、 すずろなる【形容動詞ナリ活用「すずろなり」の連体形】 め【名詞】 を【格助詞】 見る【マ行上一段活用「みる」の連体形】 こと【名詞】 と【格助詞】 思ふ【ハ行四段活用「思ふ」の連体形】 に【接続助詞】、 修行者【名詞】 会ひ【ハ行四段活用「あふ」の連用形】 たり【完了の助動詞「たり」の終止形】。

「かかる道は、いかでかいまする」と言ふを見れば、見し人なりけり。
「かかる【連体詞】 道【名詞】 は【係助詞】、 いかで【副詞】 か【係助詞】  いまする【サ行変格活用「います」の連体形:尊敬の本動詞】」 と【格助詞】 言ふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 を【格助詞】 見れ【マ行上一段活用「みる」の已然形】 ば【接続助詞】、 見【マ行上一段活用「みる」の連用形】 し【過去の助動詞「き」の連体形】 人【名詞】 なり【断定の助動詞「なり」の連用形】 けり【詠嘆(過去)の助動詞「けり」の終止形】。 

京に、その人の御もとにとて、文書きてつく。
京【名詞】 に【格助詞】、 そ【代名詞】 の【格助詞】 人【名詞】 の【格助詞】 御もと【名詞】 に【格助詞】 と【格助詞】 て【接続助詞】、 文【名詞】 書き【カ行四段活用「かく」の連用形】 て【接続助詞】 つく【カ行下二段活用「つく」の終止形】。

■和歌「駿河なる~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・駿河なる~】からどうぞ。

 富士の山を見れば、五月のつごもりに、雪いと白う降れり。
 富士の山【名詞】 を【格助詞】 見れ【マ行上一段活用「みる」の已然形】 ば【接続助詞】、 五月【名詞】 の【格助詞】 つごもり【名詞】 に【格助詞】、 雪【名詞】 いと【副詞】 白う【形容詞ク活用「しろし」の連用形:「白く」のウ音便】 降れ【ラ行四段活用「ふる」の已然形】 り【存続の助動詞「り」の終止形】。

■和歌「時知らぬ~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・時知らぬ~】からどうぞ。
 
 その山は、ここにたとへば、比叡の山を二十ばかり重ねあげたらむほどして、
 そ【代名詞】 の【格助詞】 山【名詞】 は【係助詞】、 ここ【代名詞】 に【格助詞】 たとへ【ハ行下二段活用「たとふ」の未然形】 ば【接続助詞】、 比叡の山【名詞】 を【格助詞】 二十【名詞】 ばかり【副助詞】 重ね上げ【ガ行下二段活用「かさねあぐ」の連用形】 たら【完了の助動詞「たり」の未然形】 む【婉曲の助動詞「む」の連体形】 ほど【名詞】 して【格助詞】、 

なりは塩尻のやうになむありける。
なり【名詞】 は【係助詞】 塩尻【名詞】 の【格助詞】 やうに【比況の助動詞「やうなり」の連用形】 なむ【係助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】。

第三部
 なほ行き行きて、武蔵の国と下つ総の国との中に、いと大きなる河あり。
 なほ【副詞】 行き行き【カ行四段活用「ゆきゆく」の連用形】 て【接続助詞】、 武蔵の国【名詞】 と【格助詞】 下つ総の国【名詞】 と【格助詞】 の【格助詞】 中【名詞】 に【格助詞】 いと【副詞】 大きなる【形容動詞ナリ活用「おほきなり」の連体形】 河【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の終止形】。

それをすみだ河といふ。
それ【代名詞】 を【格助詞】 すみだ河【名詞】 と【格助詞】 いふ【ハ行四段活用「いふ」の終止形】。

その河のほとりに群れゐて思ひやれば、
そ【代名詞】 の【格助詞】 河【名詞】 の【格助詞】 ほとり【名詞】 に【格助詞】 群れゐ【ワ行上一段活用「むれゐる」の連用形】 て【接続助詞】、 思ひやれ【ラ行四段活用「おもひやる」の已然形】 ば【接続助詞】、 

限りなく遠くも来にけるかなとわび合へるに、
限りなく【形容詞ク活用「かぎりなし」の連用形】 遠く【形容詞ク活用「とほし」の連用形】 も【係助詞】 来【カ行変格活用「く」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 かな【終助詞】 と【格助詞】 わび合へ【ハ行四段活用「わびあふ」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】 に【接続助詞】、 

渡し守、「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」と言ふに、乗りて渡らむとするに、
渡し守【名詞】、 「はや【副詞】 船【名詞】 に【格助詞】 乗れ【ラ行四段活用「のる」の命令形】、 日【名詞】 も【係助詞】 暮れ【ラ行下二段活用「くる」の連用形】 ぬ【強意の助動詞「ぬ」の終止形】」 と【格助詞】 言ふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 に【接続助詞】、 乗り【ラ行四段活用「のる」の連用形】 て【接続助詞】 渡ら【ラ行四段活用「わたる」の未然形】 む【意志の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】 する【サ行変格活用「す」の連体形】  に【接続助詞】、 

みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。
みな人【名詞】 ものわびしく【形容詞シク活用「ものわびし」の連用形】 て【接続助詞】、 京【名詞】 に【格助詞】 思ふ【ハ行四段活用「おもふ」の連体形】 人【名詞】 なき【形容詞ク活用「なし」の連体形】 に【断定の助動詞「なり」の連用形】 しも【副助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の終止形】。

さる折りしも、白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。
さる【連体詞】 折【名詞】 しも【副助詞】、 白き【形容詞ク活用「しろし」の連体形】 鳥【名詞】 の【格助詞】、 嘴【名詞】 と【格助詞】 脚【名詞】 と【格助詞】 赤き【形容詞ク活用「あかし」の連体形】、 鴫【名詞】 の【格助詞】 大きさ【名詞】 なる【断定の助動詞「なり」の連体形】、 水【名詞】 の【格助詞】 上【名詞】 に【格助詞】 遊び【バ行四段活用「あそぶ」の連用形】 つつ【接続助詞】 魚【名詞】 を【格助詞】 食ふ【ハ行四段活用「くふ」の終止形】。

京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。
京【名詞】 に【格助詞】 は【格助詞】 見え【ヤ行下二段活用「みゆ」の未然形】 ぬ【打消の助動詞「ず」の連体形】 鳥【名詞】 なれ【断定の助動詞「なり」の已然形】 ば【接続助詞】、 みな人【名詞】 見知ら【ラ行四段活用「みしる」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の終止形】。

渡し守に問ひければ、「これなむ都鳥」と言ふを聞きて、
渡し守【名詞】 に【格助詞】 問ひ【ハ行四段活用「とふ」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 「これ【代名詞】 なむ【係助詞】 都鳥【名詞】」 と【格助詞】 言ふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 を【格助詞】 聞き【カ行四段活用「きく」の連用形】 て【接続助詞】、

■和歌「名にし負はば~」の品詞分解・語句文法解説・修辞法(表現技法)などは、【和歌リンク・名にし負はば~】からどうぞ。

とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。
と【格助詞】 よめ【マ行四段活用「よむ」の已然形】 り【完了の助動詞「り」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 舟【名詞】 こぞり【ラ行四段活用「こぞる」の連用形】 て【接続助詞】 泣き【カ行四段活用「なく」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。


<古典文法の基礎知識>

「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。

◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。

◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。

◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。

◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。

◆「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。


<語句・文法解説>

■和歌の修辞法(表現技法)、品詞分解、語句文法解説、出典などについては下記リンクからどうぞ。
【リンク・唐衣】 【リンク・駿河なる】 【リンク・時知らぬ】 【リンク・名にし負はば】

◎準体法、主な助動詞・助詞の意味などについては、上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。

第一部
えうなき :必要がない。役に立たない。

思ひなし :思い込む。決め込む。

あらじ :~いないようにしよう。~おるまい。 「じ」=~ないようにしよう。~まい。

「住むべき国」の「べき」 :ここは「適当(~のがよい。)」でも「可能(~できる。)」でも解釈できる。
※助動詞「べし」の意味は曖昧な場合も多く、ある程度の幅をもって判断・解釈することが許される。

三河の国 :今の愛知県東半部。

「八橋といひけるは」の「ける」 :準体法なので「理由」・体言の代用をする準体格の格助詞「の」などを補って訳出する。
※この章段は他にも準体法が多数出現する。

下りゐ(おりゐ) :下りて座る。下りて腰をおろす。※ここの「下る」は馬から下りる(下馬する)意味。「ゐる」=座る。

乾飯(かれいひ) :乾した飯で、旅の携行食。湯や水で戻して食べる。

かきつばた(杜若・燕子花) :アヤメ科の多年草。水辺に生え、夏に紫や白の花をつける。

いとおもしろく :「いと」=たいそう。非常に。「おもしろし」=美しい。

いはく :連語:「いは」(ハ行四段活用「いふ」の未然形)+「く」(接尾語or準体助詞) ~言うことには。
※「いふ(連体形)」+「あく(形式名詞)」に由来する「ク語法」とする立場もある。

「と言ひければ、よめる。」の「る」 :この「る」も準体法で、和歌の詞書(ことばがき)の「~よめる。」(詠んだ歌。)と同じ用法。「和歌の詞書の例」

ほとびにけり :「ほとぶ」=ふやける。 「にけり」=~てしまった。
※「にき(過去)」・「にたり(存続)」・「にけり(過去)」の「に」は完了の助動詞。
◇乾飯は、もともと湯や水で戻して食べる物なので、ここはユーモラスな誇張表現。

第二部
行き行き :どんどん進んで行く。

駿河の国 :今の静岡県中部。

「茂り、もの心細く、」 :連用形中止法。連用形で文を一旦中止して、さらにあとに続けて行く用法。
※「もの心細く」の「もの」 :接頭語 なんとなく。どことなく。

すずろなる :思いがけない。予期しない。

修行者(すぎやうざ) :仏道修行のために諸国を行脚する僧。
「修行者会ひたり」 :「修行者」と「会ひ」の間は助詞が省略されているが、原則として格助詞「に」は省略されないので、「修行者~」ではなく、主格の格助詞「が」を補って「修行者~」と解釈する。

かかる :このような。

いかでか :「いかで」=どうして。どういうわけで。 「か」=疑問の係助詞 ~か。

いまする :尊敬の本動詞 いらっしゃる。
◇「話し手(修行者)」→「聞き手(男・一行)」への敬意。

「見し人なりけり」の「けり」 :「なり(断定)+けり」の「けり」は詠嘆である場合が多く(和歌・会話文ではほぼ詠嘆)、この「けり」は、「気づき」(実は~たのだ。~たことよ。~たのであったなあ。)を意味する「詠嘆」。

その人の御もと :「その」=(名前を明かさないで)なになにの。ある。 
※「御」=尊敬の意味を添える接頭語=相手の女性が高貴な身分であるということ。=「二条の后」のこと。

文書きてつく :「つく」=託す。ことづける。

五月のつごもり :「五月」=陰暦五月=夏(太陽暦の六月下旬~七月中旬)。 「つごもり」=月の下旬。月末。

「重ねあげたらむほど」の「む」 :この助動詞「む」は文中の連体形なので婉曲(~ような)。

なりは塩尻 :「なり」=形。 「塩尻」=塩田で円錐形に砂を積み上げたもの。これに海水をかけて塩分を固着させる。

第三部
武蔵の国と下つ総の国 :「武蔵」=今の東京都・埼玉県・神奈川県北東部。 「下つ総」=今の千葉県北部・茨城県南西部。 「つ」(上代=奈良時代以前の語)=連体格の格助詞 ~の。

思ひやれ :思いをはせる。

わび合へ :互いに嘆きあう。

◆「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」の「ぬ」 :完了の助動詞「ぬ・つ」が単独で「強意」の意味を持つ有名な例文。
※「日も暮れ」ではなく、「日も暮れてしまう」と解釈する。(当時、日が暮れたあとに旅をしないから。)
完了の助動詞「ぬ」・「つ」は、「~ぬべし」のように「む・べし」などの推量の助動詞とセットのときに「強意」となるが、この例のように単独でも「強意」の意味をもつ場合がある。
確定(完了)した事柄(~た。)=「完了」。未確定(未完了)の事柄(~てしまう。)=「強意」。

なきにしもあらず :ないわけでもない。
※「にあり」《に(断定なり・連用形)+あり(ラ変)》の間に強意の副助詞「しも」が入り、前後を二重否定(=強い肯定)「なき・ず」で挟んだ形。

さる折りしも :ちょうどそのようなとき。 「さる」=そのような。 「しも」=強意の副助詞 ちょうど。

・・・同格の格助詞「の」・・・
◆「白き鳥嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる」の「鳥の」の「の」 :同格の格助詞 ~で。
①「白き」=②「嘴と脚と赤き」=③「鴫の大きさなる」=同じ鳥のことを表わしている。
「白きの嘴と脚と赤き()、鴫の大きさなる()」(白い鳥嘴と足とが赤い鳥で、鴫の大きさであるが)

※ブログの訳は上のように訳すとクドイので②を「~赤くて、」とした。
また、体言の代用をする格助詞「の」(準体助詞)を使って③を「鴫の大きさであるが」と訳すこともできる。
さらには、「嘴と足とが赤くて、鴫の大きさである白い鳥が」と関係代名詞的に訳出することもできる。

でも、試験に出たときは、『私は同格の格助詞「の」を知ってますよぉ~』ってアピールするために、「①~鳥で、②~鳥で、③~鳥が」ってクドク訳してね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

鴫の大きさ :「鴫」=くちばしと足の長い水辺の鳥。 
※ちなみに、この「の」は連体修飾語をつくる連体格の格助詞 ~の。

遊びつつ :「遊ぶ」=(動物が)自由に動きまわる。 「つつ」=~ながら。

舟こぞりて :舟(に乗っている人)は一人残らず。 「こぞりて」=一人残らず。


<係り結び(※和歌の係り結びは和歌の記事に記載)>

第一部
「なむ」→(八橋といひ)「ける」

第二部
いかで「か」→「いまする」

塩尻のやうに「なむ」→(あり)「ける」

第三部
これ「なむ」→結びの省略。「都鳥」のあとに断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が省略されている。

◇係り結びが分からない人は上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。


<鑑賞・私の一言>

冒頭の、「身をえうなきものに思ひなして」には諸説あるようですが、第6段の「芥川」で女(二条の后)を盗んで逃げることに失敗した男が、女と社会的信用の両方を失って京の都に居づらくなったので、東国へ出かけたと解釈としたいところ。

「伊勢物語」(平安時代前期)の文学ジャンル=大和物語などと同じ「歌物語」。作者は未詳。
伊勢物語=日本最古の「歌物語」。
※「歌物語」ですから、「伊勢物語」で重要なのは「和歌」です。《伊勢物語:ブログ収録和歌一覧》

伊勢物語の主人公「昔男」のモデル=「在原業平(ありわらのなりひら)」。
「在原業平」や「二条の后」について詳しくは、「こちら(ちはやぶる~)」の記事の作者欄などを参照のこと。

予想テスト問題などは、気分が乗ったら、いずれ追記します。


<このブログに収録済みの品詞分解作品>

 品詞分解:ブログ収録作品一覧


<古文の学習書と古語辞典>

 古文を学ぶための学習書や古語辞典については、おすすめ書籍を紹介した下の各記事を見てね。
 《⇒古文学習書の記事へ》 

 《⇒品詞分解付き対訳書の記事へ》 

 《⇒古語辞典の記事へ》
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