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宇治拾遺物語 児のそら寝 品詞分解と現代語訳+問題

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 今回は、「宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり) 児のそら寝(ちごのそらね)」の原文・現代語訳(口語訳)・品詞分解(文法的説明)・語句の意味・文法解説・問題と解答・おすすめ書籍などについて紹介します。

 また、下段の「問題の解答」や「ワンポイント古典文法」では基礎的な文法事項、重要な助動詞・助詞の意味や識別などについて紹介していますので、古文の入門者や古文を苦手としている人は読んでおいて下さいね。


「宇治拾遺物語 第12話 巻1の12 児のかいもちするに空寝したる事(児のそら寝)」


<原文>

◇全文の「歴史的仮名遣い・現代仮名遣い・発音・読み方」(ひらがな)は下記の別サイトからどうぞ。
《⇒現代仮名遣いサイトへ行く》

 これも今は昔、比叡(ひえ)の山に児(ちご)ありけり。僧たち、宵(よひ)のつれづれに、「いざ、かいもちひせん」といひけるを、この児心よせに聞きけり。さりとて、し出ださ(しいださ)んを待ちて寝ざらんもわろかりなんと思ひて、片方(かたかた)に寄りて寝たるよしにて出で来るを待ちけるに、すでにし出だしたるさまにて、ひしめき合ひたり。

 この児、さだめておどろかさんずらんと待ちゐたるに、僧の「もの申し(まうし)候は(さぶらは)ん。おどろかせ給へ(たまへ)」といふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへんも、待ちけるかともぞ思ふとて、今一声(ひとこゑ)呼ばれていらへんと、念じて寝たるほどに、「や、な起こし奉り(たてまつり)そ。幼き(をさなき)人は寝入り給ひにけり」といふ声のしければ、あなわびしと思ひて、今一度起せかしと、思ひ寝に聞けば、ひしひしとただ食ひ(くひ)に食ふ音のしければ、すべなくて、無期(むご)の後(のち)に、「えい」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。


<現代語訳>

 これも今となっては昔のこと、比叡山延暦寺に児がいた。僧たちが、宵の退屈しのぎに、「さあ、ぼたもちを作ろう」と言ったのを、この児は(しめたと)心待ちに聞いた。(しかし)そうかといって、(ぼたもちを)作り上げるのを待って寝ないのもきっとよくないだろうと思って、(部屋の)片隅に寄って寝ているふりをして出来上がるのを待っていたところ、もはや作り上げた様子で、(僧たちは)集まってがやがや騒いでいる。

 この児は、(僧たちが、自分を)きっと起こしてくれるだろうと待っていると、ある僧が「もしもし、お起きなさい」と言うので、それをうれしいと思うけれども、たった一度で返事をするというのも、(ぼたもちが出来上がるのを)待っていたのかとでも(僧たちが)思うといけないと考えて、もう一声呼ばれてから返事をしようと、我慢して寝ているうちに「おい、お起こし申し上げるな。幼い人は寝入ってしまわれた」という声がしたので、ああ困ったと思って、もう一度起こしてくれよと思いながら寝て聞いていると、ただもうむしゃむしゃと盛んに食べる音がしたので、どうしようもなくて、随分時間がたった後で、「はい」と返事をしたので、僧たちはとめどなく大笑いした。


<宇治拾遺物語とは>

・成立=鎌倉時代前期
・文学ジャンル=説話
・作者=未詳


<主な説話集>

平安時代 :日本霊異記・今昔物語集
鎌倉時代 :発心集・宇治拾遺物語・今物語・十訓抄・古今著聞集・沙石集
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<品詞分解(文法的説明=文法解釈)>

◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》

 ※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
 ※二通りの解釈や説がある場合、「ん【婉曲(仮定)・・・】」のように示した。

 これも今は昔、比叡の山に児ありけり。
 これ【代名詞】 も【係助詞】 今【名詞】 は【係助詞】 昔【名詞】、 比叡【名詞】 の【格助詞】 山【名詞】 に【格助詞】 児【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

僧たち、宵のつれづれに、「いざ、かいもちひせん」といひけるを、この児心よせに聞きけり。
僧たち【名詞】、 宵【名詞】 の【格助詞】 つれづれ【名詞】 に【格助詞】、 「いざ【感動詞】、 かいもちひ【名詞】 せ【サ行変格活用「す」の未然形】 ん【意志の助動詞「む」の終止形】」  と【格助詞】 いひ【ハ行四段活用「いふ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 を【格助詞】、 こ【代名詞】 の【格助詞】 児【名詞】、 心よせ【名詞】 に【格助詞】 聞き【カ行四段活用「きく」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

さりとて、し出ださんを待ちて寝ざらんもわろかりなんと思ひて、
さりとて【接続詞】、 し出ださ【サ行四段活用「しいだす」の未然形】 ん【婉曲(仮定)の助動詞「む」の連体形】 を【格助詞】 待ち【タ行四段活用「まつ」の連用形】 て【接続助詞】 寝【ナ行下二段活用「ぬ」の未然形】 ざら【打消の助動詞「ず」の未然形】 ん【仮定(婉曲)の助動詞「む」の連体形】 も【係助詞】 わろかり【形容詞・ク活用「わろし」の連用形】 な【強意の助動詞「ぬ」の未然形】 ん【推量の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】 思ひ【ハ行四段活用「おもふ」の連用形】 て【接続助詞】、

片方に寄りて寝たるよしにて出で来るを待ちけるに、
片方【名詞】 に【格助詞】 寄り【ラ行四段活用「よる」の連用形】 て【接続助詞】、 寝【ナ行下二段活用「ぬ」の連用形】 たる【存続(完了)の助動詞「たり」の連体形】 よし【名詞】 にて【格助詞】、 出で来る【カ行変格活用「いでく」の連体形】 を【格助詞】 待ち【タ行四段活用「まつ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 に【接続助詞】、
 
すでにし出だしたるさまにて、ひしめき合ひたり。
すでに【副詞】 し出だし【サ行四段活用「しいだす」の連用形】 たる【完了の助動詞「たり」の連体形】 さま【名詞】 にて【格助詞】、 ひしめき合ひ【ハ行四段活用「ひしめきあふ」の連用形】 たり【存続の助動詞「たり」の終止形】。  
※この「にて」は、に【断定の助動詞「なり」の連用形】+て【接続助詞】とする場合もある。

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 この児、さだめておどろかさんずらんと待ちゐたるに、
 こ【代名詞】 の【格助詞】 児【名詞】、 さだめて【副詞】 おどろかさ【サ行四段活用「おどろかす」の未然形】 んず【推量の助動詞「むず」の終止形】 らん【現在推量の助動詞「らむ」の終止形】 と【格助詞】 待ちゐ【ワ行上一段活用「まちゐる」の連用形】 たる【存続の助動詞「たり」の連体形】 に【接続助詞】、
※「待ちゐ」は、待ち【タ行四段活用「まつ」の連用形】+ゐ【ワ行上一段活用「ゐる」の連用形】の複合動詞

僧の「もの申し候はん。おどろかせ給へ」といふを、
僧【名詞】 の【格助詞】 「もの【名詞】 申し【サ行四段活用「まうす」の連用形:謙譲の本動詞】 候は【ハ行四段活用「さぶらふ」の未然形:丁寧の補助動詞】 ん【意志の助動詞「む」の終止形】。 おどろか【カ行四段活用「おどろく」の未然形】 せ【尊敬の助動詞「す」の連用形】 給へ【ハ行四段活用「たまふ」の命令形:尊敬の補助動詞】」  と【格助詞】 いふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 を【格助詞】、

うれしとは思へども、ただ一度にいらへんも、
うれし【形容詞・シク活用「うれし」の終止形】 と【格助詞】 は【係助詞】 思へ【ハ行四段活用「おもふ」の已然形】 ども【接続助詞】、 ただ【副詞】 一度【名詞】 に【格助詞】 いらへ【ハ行下二段活用「いらふ」の未然形】 ん【仮定(婉曲)の助動詞「む」の連体形】 も【係助詞】、

待ちけるかともぞ思ふとて、
待ち【タ行四段活用「まつ」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 か【係助詞】 と【格助詞】 も【係助詞】 ぞ【係助詞】 思ふ【ハ行四段活用「おもふ」の連体形】 と【格助詞】 て【接続助詞】、
※とて【格助詞】とする立場もある。

今一声呼ばれていらへんと、念じて寝たるほどに、
今【副詞(名詞)】 一声【名詞】 呼ば【バ行四段活用「よぶ」の未然形】 れ【受身の助動詞「る」の連用形】 て【接続助詞】 いらへ【ハ行下二段活用「いらふ」の未然形】 ん【意志の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】、 念じ【サ行変格活用「ねんず」の連用形】 て【接続助詞】 寝【ナ行下二段活用「ぬ」の連用形】 たる【存続の助動詞「たり」の連体形】 ほど【名詞】 に【格助詞】、

「や、な起こし奉りそ。幼き人は寝入り給ひにけり」
「や【感動詞】、 な【副詞】 起こし【サ行四段活用「おこす」の連用形】 奉り【ラ行四段活用「たてまつる」の連用形:謙譲の補助動詞】 そ【終助詞】。 幼き【形容詞・ク活用「をさなし」の連体形】 人【名詞】 は【係助詞】 寝入り【ラ行四段活用「ねいる」の連用形】 給ひ【ハ行四段活用「たまふ」の連用形:尊敬の補助動詞】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】」

といふ声のしければ、あなわびしと思ひて、今一度起せかしと、思ひ寝に聞けば、
と【格助詞】 いふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】 声【名詞】 の【格助詞】 し【サ行変格活用「す」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 あな【感動詞】 わびし【形容詞・シク活用「わびし」の終止形】 と【格助詞】 思ひ【ハ行四段活用「おもふ」の連用形】 て【接続助詞】、 今【副詞(名詞)】 一度【名詞】 起こせ【サ行四段活用「おこす」の命令形】 かし【終助詞】 と【格助詞】、 思ひ寝【名詞】 に【格助詞】 聞け【カ行四段活用「きく」の已然形】 ば【接続助詞】、

ひしひしとただ食ひに食ふ音のしければ、すべなくて、
ひしひしと【副詞】 ただ【副詞】 食ひ【ハ行四段活用「くふ」の連用形】 に【格助詞】 食ふ【ハ行四段活用「くふ」の連体形】 音【名詞】 の【格助詞】 し【サ行変格活用「す」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 すべなく【形容詞・ク活用「すべなし」の連用形】 て【接続助詞】、

無期の後に、「えい」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
無期【名詞】 の【格助詞】 後【名詞】 に【格助詞】、 「えい【感動詞】」 と【格助詞】 いらへ【ハ行下二段活用「いらふ」の連用形】 たり【完了の助動詞「たり」の連用形】 けれ【過去の助動詞「けり」の已然形】 ば【接続助詞】、 僧たち【名詞】 笑ふ【ハ行四段活用「わらふ」の連体形】 こと【名詞】 限りなし【形容詞・ク活用「かぎりなし」の終止形】。

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<古典文法の基礎知識>

「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。

◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。

◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。

◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。

◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。

◆「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。


<語句・文法解説>

◇この説話の文法解説は、下段の<問題:解答と解説>および<ワンポイント古典文法>を参照のこと。

◇特に重要な語句については、ここでは解説せずに問題として出題した。


・児(ちご) :学問や行儀作法見習いのため寺院にあずけられた少年。または、寺院で召し使われる俗体(僧の姿をしていない)の少年。

・宵(よひ) :夜に入って間もない頃。

・つれづれ(徒然) :することがなくて手持ちぶさたなこと。退屈なこと。

・いざ :さあ。

・かいもちひ(掻餅) :ぼたもち。おはぎ。(一説に)そばがき。
※「かきもちひ」のイ音便

・心よせ :期待すること。

・さりとて :そうかと言って。

・し出だす(しいだす) :作り上げる。

・「わろかりなん」の「な」 :完了の助動詞「つ」「ぬ」+推量の助動詞「む」「べし」など=完了→強意(確述)を表す。

・片方(かたかた・かたがた) :片隅。傍ら(かたわら)。

・よし(由) :~(する)ふり。

・「もの申し候はん」の「申す(まうす)」 :謙譲の本動詞:申し上げる。

・「もの申し候はん」の「候ふ(さぶらふ)」 :丁寧の補助動詞:~ます。
※「もの申し候はん」は、慣用句として訳を覚えておくこと。

・「おどろかせ給へ」の「給ふ(たまふ)」 :尊敬の補助動詞:お~になる。~なさる。

・「せ給へ」 :二重尊敬(最高敬語)。二重尊敬(最高敬語)は、地の文では天皇ファミリーなど最高階級に対して使われるが、この場合は会話文なので最高階級とは限らない。

・「な起こし奉りそ」の「奉る(たてまつる)」 :謙譲の補助動詞:お~申し上げる。

・や :おい。これ。

・「寝入り給ひにけり」の「に」 :「に」が完了の助動詞である形。
※「にけり(過去)」「にき(過去)」「にたり(存続)」の「に」は完了の助動詞。

・わびし : 困る。つらい。情けない。

・かし :(念押しの気持ちを表し)~よ。

・ひしひしと :(盛んに物を食べる音を表し)むしゃむしゃと。

・すべなくて(術無くて) :「ずちなくて」としている伝本もあるが意味は同じ。

・無期(むご) :長い時間。

・えい :はい。


<問題> ※レベルは考慮していないので悪しからず。
  
①「そら寝」 「さだめて」 「念じて」 「あな」 「すべなくて」 の意味を答えなさい。

②「おどろかさ」と同じ意味で用いられている語を原文中から求め、その語を終止形で答えなさい。

③「ただ一度にいらへんも」で、動詞「いらへ」の活用の種類と意味をそれぞれ答えなさい。

④「寝ざらんもわろかりなん」で、「わろかり」の品詞、活用の種類、活用形を答えなさい。

⑤「もの申し候はん」を現代語訳しなさい。

⑥「な起こし奉りそ」を現代語訳しなさい。

⑦原文中に係り結びが1箇所ある、その結びの語と活用形を答えなさい。

⑧「待ちけるかともぞ思ふとて」で、「待ちける」と「思ふ」の動作主をそれぞれ答えなさい。

⑨「待ちけるかともぞ思ふとて」の「もぞ」の意味を答えなさい。

⑩原文中に児の心内文は何箇所あるか答えなさい。

※この説話の面白い点は、どこにあるのかを理解しておくこと。
※歴史的仮名遣い→現代仮名遣いを確認しておくこと。
※「無期」などの漢字の読みを確認しておくこと。


<私の一言 (児と僧の男色説)>
 
 「もの申し候はん。おどろかせ給へ」の「せ給へ」は二重尊敬(最高敬語)ですが、これは、この児が高貴な家柄の子だからではなく、いつも雑用に追われている普通の子で、僧と児の間に男色があるために、二重尊敬を使っているのだと、「山本古文読解講義の実況中継(下) 山本康裕」p174~p175には書いてあります。

 つまり、男ばかりの寺にいて、戒律で女性と性的な関係を持つことを禁じられている僧たちにとって、可愛い少年は性的な対象でもあり、恋人もしくはアイドルなのだと・・・(笑)
 織田信長が小姓の森蘭丸を可愛がったように、徳川家康など歴史上の有名人の多くが少年愛(ほとんどが同性愛ではなくバイセクシャル)愛好者だったようです。(秀吉には男色の趣味は無かったようですが・・・。)
 おそらく、男色説が有力だと私も思いますが、学校では高貴説しか教えないでしょうね・・・。

 と思っていたら、コメントがあって、男色説を教えている学校もあるそうです。いい学校ですねぇ。

 
<問題の解答と語句・文法解説>


「そら寝」 :眠ったふりをすること。 =「寝たるよし」
「さだめて」  :きっと。
※「さだめて」は、推量と呼応する副詞(陳述の副詞) 「さだめて~んずらん」 :きっと~だろう。
「念じて」  :我慢して。
「あな」 : ああ。
「すべなくて」 : どうしようもなくて。

② 起こす

③ 「活用の種類」 ハ行下二段活用 、「意味」 返事をする。
※「活用の種類」と「活用形」を混同しないこと。(この場合の「活用形」は「未然形」)
※活用の行「ハ行」を書き忘れないこと。(通常、動詞の「活用の種類」は、「活用の行」を含めて答える。)

④ 「品詞」 形容詞、「活用の種類」 ク活用、「活用形」 連用形。
◆形容詞のク活用・シク活用の識別
形容詞の語幹(「うれし」の場合だと「うれ」)に「く」or「しく」+「なる」をつけて、自然な形になる方を選択。
「~くなる」=ク活用(例:幼し)、「~しくなる」=シク活用(例:うれし)

⑤ もしもし。 ※直訳は、「ものを申し上げましょう」。
※「もの申し候はん」は、丁寧に人に呼びかける慣用句。

⑥ お起こし申し上げるな(お起こし申すな)。
※「な~そ」は、(懇願するイメージの穏やかな禁止を表す)禁止構文。
「な」は、終助詞の「そ」と呼応する副詞(陳述の副詞)。

⑦ 「結び」 思ふ 、「活用形」 連体形
※「係り」は、係助詞の「ぞ」だが、「もぞ」を1語の特殊な係助詞として「係り」とする立場もある。

⑧ 「待ちける」 児 、「思ふ」 僧たち

⑨ (悪い事態を予測して)~すると困る。 or ~するといけない。 or ~すると大変だ。
※「もぞ」は、「も(係助詞)+ぞ(係助詞)」の連語で、同じ意味の「もこそ」とともに「もぞ・もこそ構文」、「困惑構文」、「懸念構文」といいます。
「もこそ」の場合の結びは、もちろん已然形。
ちなみに「もぞ」は、ほとんどの中学生が習う和歌、「玉の緒よ~」でも使われていましたね。

⑩ 児の心内文(心の中で考えた内容を示す文)は、7箇所。
1.「し出ださんを待ちて寝ざらんもわろかりなん」 2.「さだめておどろかさむずらん」 3.「うれし」 4.「ただ一度にいらへんも、待ちけるかともぞ思ふ」 5.「今一声呼ばれていらへん」 6.「あなわびし」 7.「今一度起せかし」
◆この文章の場合、引用の格助詞「と(とて)」を探せばわかりますね。


<ワンポイント古典文法> 

◇「児のそら寝」を使って基本的な文法をマスターしよう!

古文を正しく解釈するためには、品詞分解(文法的説明)をするための学力が必須です。
品詞分解をするためには、「活用形」の役割、「助動詞と助詞」(付属語)の接続と意味、「用言と助動詞」(活用語)の活用などの知識が必要になります。
つまり、これらの知識がないと、「古文が苦手な人」になってしまうのです。

■「連用形」は、「用言」に連なる形だから、「後に用言(動詞・形容詞・形容動詞)を続ける」のが基本的な役割。
(もちろん、後の語が助動詞・助詞の場合や連用形中止法などの場合を除く。)
例1 :もの《申し候は》ん :申し《動詞・連用形》+候は《動詞》
例2 :おどろか《せ給へ》 :せ《助動詞・連用形》+給へ《動詞》

■「連体形」は、体言に連なる形だから、「後に体言(名詞)を続ける」のが基本的な役割。=「連体法」。
(もちろん、後の語が助動詞・助詞の場合や連体形止め、係り結びによる連体形の結びなどの場合を除く。)
例1 :《笑ふこと》 :笑ふ《動詞・連体形》+こと《名詞》
例2 :寝《たる由》 :たる《助動詞・連体形》+由《名詞》

■準体法
連体形のあとに本来あるはずの体言がなく、連体形が体言を伴わずに体言と同じ役割で働く。
「こと・もの・とき・様子」など文脈に適した体言、または、体言の代用をする準体格の格助詞「の」を補って訳出する。

・例1・和歌の「詞書(ことばがき)=前書き」 :雪の降り《ける》をよめ《る》 :雪が降った《様子》を詠んだ《歌》
・例2・児のそら寝 :「いざ、かいもちひせん」といひ《ける》を :「さあ、ぼたもちを作ろう」と言った《の》

■推量の助動詞「む」の意味は、【スイカ買え】
《未然形接続》

・助動詞「む」の大分類の意味は「推量」、小分類の意味は以下の通り。

「ス:推量:~だろう。」
「イ:意志:~(し)よう。」
「カ:勧誘(適当):~がよい。」
「カ:仮定:~なら、その~。」
「エ:婉曲:~ような」 ※婉曲=遠回しに言うこと。

文末の「む」 
大まかな目安として(確率7割程度)、
推量(主語が3人称)、意志(主語が1人称)、勧誘・適当(主語が2人称)

文中の「む」
仮定・婉曲 連体形で用いられ、体言を修飾する「連体法」や体言に準じた働きをする「準体法」として働く。
例 :「し出ださを」(婉曲:作り上げる(ような)を)
※婉曲は「ような」と無理に訳出しない場合もあり、現代語訳は自然な日本語で「作り上げるのを」としている。

※文中の「む」は、仮定・婉曲のどちらの意味でも解釈できる場合も多いが、形の上での大まかな目安としては、「む」+「名詞」=婉曲、「む」+「助詞」=仮定

■推量の助動詞「べし」の意味は、【スイカ止めてギョ】
《終止形接続・ラ変型には連体形接続》

「べし」は「む」の意味を強くしたイメージで当然性を表す=「べし」の中心語義は「当然」。
それそれの意味に「《当然》~だろう」のように当然のニュアンスを含む。

「ス:推量:~だろう。~にちがいない。」
「イ:意志:~つもりだ。~(し)よう。」
「カ:可能:~できる。~できそうだ。」
「ト:当然:~はずだ。」
「メ:命令:~せよ。」
「テ:適当(勧誘):~がよい。」
「ギ義務:~(し)なければならない。」
「ョ予定:~(する)ことになっている。」

・助動詞「べし」は、大分類の意味の上では「推量」グループに属するが、小分類の意味としては上記のような多義語で、どちらの意味とも取れる曖昧な場合も多いので、不自然でなければ、ある程度の幅をもった解釈が許される。

※「べし」がラ変型の語の連体形に接続するのは、「べし」がウ段音に接続する性質のため。
(形容詞の補助活用、形容動詞の活用もラ変型に含む)
形容詞の補助活用に終止形がないのも「終止形(ラ変型は連体形)接続」の助動詞が同じ性質を持つため。

※「べし」は、「児のそら寝」には出てきませんが、重要な助動詞なので記述しておきました。

■現在推量の助動詞「らむ」の意味は、【田園の水源(伝婉の推原)】
「べし」と同じ【終止形接続・ラ変型には連体形接続】

・現在の推量 :文末:(今頃~ているだろう) 
※実際には目に見えていないことを推量

・現在の原因(理由) :文末:(どうして~なのだろう、だから~ているのだろう) 
※実際に目に見えていることの原因

・現在の伝聞 :文中(連体形):(~とかいう)
・現在の婉曲 :文中(連体形):(~ているような)

・この他に「(単なる)推量 :~だろう。」の意味もある。

※過去推量の助動詞「けむ」は、「らむ」の意味を過去にしたイメージ。「む」は未来。

■推量の助動詞「むず」
《未然形接続》

「む」の強意表現である「むとす」=「む+と(格助詞)+す(サ変)」の変化したもので、俗な話言葉で用いられる。
※この説話の「むずらむ(んずらん)」は、「らむ」の現在推量の意味が失われ、「む」や「むず」とほとんど同じ意味「~だろう」を表す連語。 

■完了の助動詞「たり」《連用形接続》 & 完了の助動詞「り」《サ未・四已接続》

基本義が「存続」であるため、「~ている。~てある。」と訳して意味が不自然でない場合には「存続」、不自然であれば「完了:~た。」と判断する。

※完了の助動詞「り」は、《サ未・四命接続》とする立場もある。

■「る」・「れ」の識別

・動詞エ段音+「ら・り・る・れ」=完了の助動詞「り」 《サ未・四已接続》
例 :「書ける」、「住める」

・動詞ア段音+「る・れ」=受身・可能・自発・尊敬の助動詞「る」 《四・ナ・ラの未然形接続》
例 :「書かる」、「住まる」、「今一声呼ばていらへん」

・動詞イ段音orウ段音+「る・れ」=動詞の活用語尾

◇ちなみに、使役・尊敬の助動詞「す」も《四・ナ・ラの未然形接続》
例 :「おどろか給へ」

※受身・可能・自発・尊敬の助動詞「らる」・使役・尊敬の助動詞「さす」は、《四・ナ・ラ以外の未然形接続》

■完了の助動詞「つ」と「ぬ」の違い

「つ・ぬ」の基本義は、「確信を持ってはっきり述べる」(~た。~てしまう。)

人の意志が加わった動作(他動詞に接続する場合が多い)=「つ」
例 :「石投げつ」(石を投げた。)

人の意志を伴わない自然発生的動作(自動詞に接続する場合が多い)=「ぬ」
例 :「花咲きぬ」(花が咲いた。)

■強意(=確述)の助動詞
完了の助動詞「つ」・「ぬ」+推量の助動詞(「む」・「べし」など)の場合、原則として、「つ」・「ぬ」は「完了」ではなく、まだ終了していない未確定なことをはっきり述べる「強意(確述)」の助動詞となる。

※この用法の場合、推量の助動詞の意味は、「ス:推量」、「イ:意志」、「カ:可能」、「テ:適当」のどれかになる場合が多い。
例 :「わろかりなん」の「なん」(きっと~だろう。)

※また、「つ・ぬ」単独でも「強意(確述)」の意味となる場合もある。

例 :伊勢物語「はや船に乗れ。日も暮れ(早く船に乗れ。日も暮れてしまう。)
確定(完了)した事柄=「完了」(~た。)、未確定(未完了)の事柄=「強意(確述)」(~てしまう。)

■過去の助動詞「き」と「けり」の違い

「過去の直接体験・確実に存在した事実」=「き」

「過去の間接体験(人から聞いた話)」=「けり」

※「けり」は、(今まで気づかなかった事実に気づいた驚き)「詠嘆」の意味も持つ。

■接続助詞 「て」、「に」、「ども」、「ば」

「児のそら寝」では、主要な接続助詞の接続や意味をマスターすることが出来る。

◇「て」 例: 待ち(連用形)+「て」(接続助詞) ~て。
※「と(格助詞)て(接続助詞)」は、「と(思ひ)て」「と(言ひ)て」 
「とて」を格助詞とする立場もある。

◇「に」 例: (待ち)ける(連体形)+「に」(接続助詞) ~ところ。(~ので。~のに。)
※接続助詞「に」・格助詞「に」は、どちらの解釈も可能な場合がある。

◇「ども」 例: 思へ(已然形)+「ども」(接続助詞) (逆接の確定条件) ~けれども。

◇「ば」 例: (声のし)けれ(已然形)+「ば」(接続助詞) (順接の確定条件)

・「順接」(先行文と後続文が対立せずに順当)⇔「逆接」(先行文と後続文が矛盾・対立)

・「確定条件」とは、「声のしければ」の場合だと、「声がした」という条件を確定したということ。

・後続する文脈に応じて、順接確定条件の「ば」の場合だと意味は、以下のように分かれる。
①原因・理由(~ので)
②偶然的条件or単純な接続(~すると)
③恒常的条件(~するといつも)
※順接仮定条件(~なら)の「ば」=未然形接続、順接確定条件の「ば」=已然形接続。

・さらに、接続助詞「ば」で、動作の主体(動作をする人)と客体(動作をされる人)がわかる場合が多い。 
「A(主体)がB(客体)に~《ば》、Bが~」
例 :「えい」といらへたりければ、僧たち笑ふこと限りなし。
A(児)がB(僧たち)に~《ば》、B(僧たち)~


<私のもう一言>

 「児のそら寝」は、なぜか、高校1年生が最初に習う古文の作品のようで、話の内容は面白いのですが、文法項目は決してやさしくはなく、古文の基本エッセンスが詰まった作品とも言える。

 「児のそら寝」の文法項目をきちんとマスターするだけでも、その辺にいるアンポンタンな高校2~3年生より、古文の実力は上位に位置することが出来るようになります。

 古文が苦手で、何から手をつければ良いのか分からないような、お悩み状態の高校2~3年生および大学受験生は、「児のそら寝」をしっかりと復習することをおすすめします。


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初めまして
うちの高校では男色説でした

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> 初めまして
> うちの高校では男色説でした

こんばんは。
貴重なご意見ありがとうございました。
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